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2023/05/31

書籍「清少納言を求めて」

草思社の本。筆者はフィンランド人。

決め付けと思い込みの押しつけにうんざり。書き方にも内容にもいらいらするばかりだった。気になる点について書いておく。

・横笛について
横笛は※※自主規制※※の隠語(P423)のくだり、恥ずかしさと憤りで爆発しそうになった。何で枕草子の本でこんな言葉が出てくるのか分からない。この箇所の前に、枕草子乃引用で何度も横笛が出てきて印象づけている。その上で最高の(最低の)タイミングであかすのだ。

横笛は宮中の行事に持つ代われる神聖な楽器であり、横笛の主には一条天皇もいる。放埒な噂のない天皇である。不敬すぎる。そもそも、男女の和合は子孫の繁栄のためであり、子をなすというのは天皇の重要な役目だった。快楽が第一ではない。

隠語とは時と場合を選ぶ言葉。なんで??と考えてセクハラという単語が浮かんだらセクハラにしか見えてこなくなくなった。気色悪い。

・コルテザンという言葉について
アーサー・ウェイリーが英訳した本は、副題に「The diary of a courtesan in tenth century Japan」.(10世紀のコルテザンの日記)が付いている。

コルテザンはもともと宮廷の女性を指す言葉が語原だが、現在あまり使わないようだ。ただし江戸時代の遊女を紹介するのに使われる言葉でもある。古典を翻訳するときに、わざと古い言い回しを使う場合もあるから、ウェイリーがどのような意図で使用したか分からないが、現代において使うのは適切ではないと思う。

lady in waiting(侍女)やcourt lady(宮廷の女性)と紹介する方が適切なようである。ブリタニカのサイトでは「courtier(廷臣)」と説明されている。

courtesan - Wiktionary(英語)
https://en.wiktionary.org/wiki/courtesan
1. 娼婦(遊女) 2.貴族の愛人 3.宮廷の女性

Sei Shonagon | Japanese writer | Britannica(英語)
https://www.britannica.com/biography/Sei-Shonagon

 

・1670年のある日本人研究者
1670年のある日本人研究者が、清少納言や紫式部を娼婦と公表した(P422)とのことだが、中山三柳の「醍醐随筆」での記述である。中山三柳は医師で儒学を修めた。儒教は女性蔑視の考え方も大きく、女性の学問を否定するための発言であり、現実にそうであったわけではない。

1670年頃は戦乱の世が収まって、江戸時代の幕藩体制が整った時代で、元禄文化(西鶴、近松、芭蕉)が現れる前である。北村季吟が枕草子の注釈書を物した頃で、その注釈書「枕草子春曙抄」が出版されてから、枕草子があらたな読者を獲得していくのである。

醍醐随筆(『杏林叢書 第3輯』)
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/935251/1/115

 

・アイヴァン・モリス『光源氏の世界』
この本では平安時代の知識の多くを『光源氏の世界』に拠っている。『光源氏の世界』では平安時代の絵画の多くは好色なものと素遅くしているが、「栄花物語」の「男絵など絵師はづかしうかかせ給う」というのは絵師が赤面するほどの(玄人はだしの)素晴らしい絵という意味であって、好色ではない。予想以上に自由恋愛の、性愛の時代と思われているようだ。

栄花物語 (校註国文叢書 ; 第10冊) 三十六 根合
https://dl.ndl.go.jp/pid/926046/1/380

 

この本は主人公がになる映画を紹介したり、江戸時代の成人向けの大衆作品と混同するような書き方をしたり、枕草子が性愛の文学であると強調される作りとなっている。現在の日本での享受についてほとんど触れておらず、違和感が甚だしい。

最後にどうしても書かざるを得ない事がある。人を悪く言うのに特定の人種を指す詞を使うのは良くない(P186)。先人が使っているからといって使うのではなく、使って良い言葉なのか考えるべきだ。

筆者は清少納言を理解できるのは私だけという聖域にいて、努力や取材の跡が見えない。自分に都合のいい清少納言を作り上げている。インターネットにも情報はあるし、自動翻訳の力も借りられる。英語なら問い合わせに対応してくれる機関もあったはずだ。日本くんだりまで何しに来たんだか。

□参考文献
・ゲルガナ・イワノワ「英訳された『枕草子』が作り出した大衆文化」
https://genjiito.org/journals/juornal2/
・Ivanova, Gergana Entcheva "Knowing women : Sei Shonagon's Makura no soshi in early-modern Japan"(英語)(知る女:近世日本における清少納言の枕草子)
https://dx.doi.org/10.14288/1.0072910
・アイヴァン・モリス『光源氏の世界』斎藤和明訳、筑摩書房、1969年
・中村幸彦『近世文藝思潮攷』岩波書店、1975年(「幕初宋学者達の文学観」)

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コメント

この記事に対する質問ではなく、昔の「鉄人28号VS鉄腕アトム展」の記事に対する質問です。「鉄人28号VS鉄腕アトム展」の記事は、古いので、そこに書いても返事が無いかもしれないと思い、ここに書かせて頂きました。
私は、特撮、特に、実写版鉄腕アトムのファンです。ネットで「鉄人28号VS鉄腕アトム展」の記事を見つけたので、質問したくなりました。
この記事で、管理人さん達のChatが有り、「実写版鉄腕アトムは、アレだった。」と言う意見を述べておられました。
このアレは、「コスチュームがダサイ」と言う意味より、「実写アトムの衣装が、レオタードのようなつなぎに、タイツで、スカーフまで巻いて良い子を演じているので、中性的と言うか、少し女性的な感じがある。」と言う意味でしょうか?
衣装からすると、そんな感じもするのかなあ?と思ったので、伺いたいと考えました。
私も、判らない訳では無いので、実際のところを伺えてたら幸いです。

なお、話は変わりますが、紫式部は、源氏物語を書くに際し、チームが結成され、このチームであの大作を仕上げたそうですね。
また、紫式部は、宮中から下がる前に、道長か誰か忘れましたが、藤原氏の権力者と関係を持っていたのは、紫式部日記を読むと判るそうですね。

清少納言と言うと、私は、中宮 定子から言われた「香炉峰の雪や如何に?」を思い出します。
当時の教養人の会話ですね。

実写版アトムですが、すみません。当時のことは全く覚えていないです。主役の方は確かに中性的な顔立ちでしたね。

源氏物語がチームを組んでとのことですが、源氏に詳しくないので、そのような説は見たことがないです。賀茂斎院の選子内親王のサロンではセクションに分かれて和歌や物語が作られていたようですね。

香炉峰の雪は枕草子では有名なエピソードかも知れません

コメント有難うございます。
紫式部がチームで書いていたと言うのは、NHKラジオで大学の先生が紫式部日記を、シリーズで講釈されていた時に伺いました。

実写アトムのコメンとを有難うございます。
私は、アトム役の子は、ふっくらとして良い家のおぼっちゃん的な顔立ちで、凛々しい感じが有ったと思うのですが、脚の長い彼を選んで、漫画のスタイルにちかづけるために、タイツにレオタードのようなつなぎを着せたので、かっこ良かったのですが、女性ダンサーのようなコスチュームになり、見ていて、少し恥ずかしい気がする衣装になったからではないかと推察しています。

ご本人も軍服スタイルなど大変気に入っていたようですが、後年、タイツ姿は恥かしかったと言う発言をされていました。中一の初めまでタイツを穿いて演じておられたので、似合っていても恥ずかしかったのは理解できます。

見ている子は、少しアレ?と思いつつ、応援していたのでしょう。それでも、着てみたいと言う子が多かったです。

補足致しますと、大学の名誉教授の説明では、以下のような点から、チーム紫式部が有ったと思われるそうです。

・大変なボリュームの源氏物語である。
・執筆期間も長いと思われるなか、ストーリーによって、紫式部の指導の下、チーム紫式部が書いたのではないかと思われるものが有る。

毎週、土曜の17:00くらいから、放送が有り、楽しく聞かせて頂きました。
それを聞かれた方の感想が下記に載っています。

https://kohnakasug.exblog.jp/241235868/

なお、実写アトムがアレ?と言う話は、twitterに、それに関係するような意見が載っています。

https://twitter.com/t6DqxDRcDvjYeZ7/status/1669727991864381441?utm_source=yjrealtime&utm_medium=search

御参考まで。

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