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2013/09/14

ハンヌ・ライアニエミ「量子怪盗」

酒井昭伸訳、新ハヤカワ・SF・シリーズ、2012年
量子怪盗:ハヤカワ・オンライン
http://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/235006.html

□概要
遠未来、太陽系の辺境にある〈ジレンマの監獄〉に収監されていた盗賊ジャン・ル・フランブールは少女ミエリによって脱獄させられ、盗みの依頼を受ける。ジャンは自分が過去に何者であったかを盗めといわれ、失ったものを取り戻すため、火星に向かう。

□メモ
巻頭言に「アルセーヌ・ルパンの脱獄」からの引用があり、本文にもルパンシリーズの影響がある。
「フランブール」は「ばくち打ち」の意味。

□感想
SFガジェットや造語、とくに量子関係のさまざまな用語や設定に圧倒された。話の筋はあまり目新しさはないというか、設定に比して牧歌的な感じ。だから設定が理解できなくても話には入っていける。筋までとがってたら理解の範疇外だっただろう。

とにかく最初はSF設定の洪水なので、自分にはほとんどないSF脳をかき集めて読んでみた。やはり浮かぶのは少女漫画だな萩尾望都さんとか竹宮惠子さんとか明智抄さんとか厦門潤さんとか。あと火星が舞台といえば新井素子さんの「星へ行く船」。厦門さんは初期作品に天才少女とそれに振り回される青年の話がいくつかあった。厦門さんなら百合もOKだ。(ところで、ボクっていう一人称はどうなの(^^;;)

IT関連に関しては少し用語を知っているので助かった。「心理的な隙をつく社会的アプローチソーシャル・エンジニアリング」(訳語における苦労がしのばれる(^^;;)。ソーシャル・エンジニアリングという手法はいかにもアルセーヌ・ルパンが使いそうだと思っていたので、未来の世界で使われてて嬉しい。未来チックなやりかたでする変装も面白い。なによりジャンがうきうきしている。からくりが理解できているか、といえばできてないけど(笑)

一方で、地球のいろんな文化圏の単語が出てくる。フィンランドのカレワラや、プルースト効果やゴーゴリやゾクなど。平安京なんて言葉も出てくる(笑) 主要人物のうち、ミエリと彼女の船ペルホネンはフィンランド語だ。ジャン・ル・フランブールはフランス人の名前。だから若干フランス系の事物が多いかも。モンゴルフィエズヴィル+気球ハウスとかブライユ点字とか。M・ボートルレのMはムッシュー。

パーティーに出席するジャンは、正装をしている。白いタイ=燕尾服だと思う(ルパンの時代なら)。バリバリのSF世界で燕尾服というのも乙なもの。

身につけているのは白いタイと、装飾品がわりにする携帯時計のレプリカがいくつか、そして襟の折り返しに差した薔薇の花が一輪だ。(P281)

なにげに、怪盗ルック(むしろ怪人ルック)をしているのはキングだったりする。黒のタイはタキシードのこと。

髪は黒く、極細の口ひげを生やしている。黒のタイと白手袋を着用していて、肩にはおっているのはオペラ・クロークだ。まるで、いまにも夜会へ出かけようといういでたちだった。手にはステッキを一本。(P425)


設定におぼれながら読みすすめているうちに、これずぶずぶに“アルセーヌ・ルパンもの”なんじゃ?と思った。オマージュって言ってもいいんだけれど、何か、予測した以上にアルセーヌ・ルパンシリーズに裏打ちされている。ジャンの愛読書はルパンシリーズの「水晶の栓」。ジャンが名乗る名前はルパンの偽名。ジャンに相対する青年探偵の名前はイジドール・ボートルレ。ルパンシリーズ「奇岩城」に登場する少年探偵の名前と同じ。ストーリーで一番似ているのは「奇岩城」だろう。

ジャンは転生や分裂を繰り返しながら、長い間生きている。ジャンが地球のサンテ刑務所に収監されていたとき、同房の囚人に言った言葉は、「続813」でルパンが語る理想とそっくり。人格もそっくり、とまでは判断はできないけれど、すっとぼけてたりパフォーマンス好きだったりするところは好感触。そんなわけでジャンの元の魂がアルセーヌ・ルパンっていう頭でよんでいた。ジャンの元とキングの元はかなり前に分裂した同じ魂、という理解でいいんだよね。

エピローグ前の本編ラストは、m9(^Д^)プギャーーーッだった。やったことやられてやんのww
やったのはアルセーヌ・ルパン。うん、やっぱり分離できないわ。
(携帯時計はWatchで合ってるみたい。アルセーヌ・ルパンの時代なら懐中時計になりますわね)

そしてエピローグ(幕間となっているように、この作品は次巻につづくのだけど)、お出ましきた!!という感じだった。


やはりルパン関係で、「ジャン」で「建築家」ということでにまにまが止まらない。そして「建築学専攻の学生」ときたら。ジャンとイジドールの関係が、イジドールがジャンの後継者というか、何かを託される存在というか、そういうところも「奇岩城」と少し重なる。実は対立軸にないんだよね。

イジドールはジャンより背が高い。「奇岩城」でもイジドールはルパンより背が高いと思う。ひょろっと背だけ高くて中身が未成熟なイジドールを、低いところからルパンがいぢめたり諭したりっていうほうがいい。

シャーロック、いいぞ、もっとかじっちゃれ。実体見るとグロなのかもしれないが、かわいい(笑)

ウブリエットは普通名詞として「水晶の栓」に出てくる。

登場人物一覧で、気になって仕方がなかったのがペレグリーニ。登場してやっぱり!だった。レイモンドは名前だけで容姿はちがうけど、ペレグリーニはそのままだもの。気づく人少ないだろうから書いてしまうけれど、ペレグリーニは、ルパンシリーズで通例ペルグリニと訳されている名前と同じ。ペルグリニはフランス語読みで、元はイタリア人の名前。(だから「量子怪盗」は○○○○○○の○○なんですよ(^^;;)


再読したら、設定が分かってきた部分もあるし、伏線に気付けて面白い。しかし、エピローグ、脱獄した三つ目のゴーゴリだと?? また読まねばなるまい。

第2弾の翻訳も決まっているようで、ぜひ実現してほしい。(だいぶ先だけど…)
SFエンタテインメントの新叢書 新☆ハヤカワ・SF・シリーズ
http://www.hayakawa-online.co.jp/ginze/

第10回配本 2015年6月
複雑系王子
The Fractal Prince(2012)
ハンヌ・ライアニエミ Hannu Rajaniemi
酒井昭伸/訳

第3弾の原書は2014年4月刊行予定。(三部作の完結編のはず)
Hannu Rajaniemi - The Causal Angel announced - Upcoming4.me
http://upcoming4.me/news/book-news/hannu-rajaniemi-the-causal-angel-announced
The Causal Angel: Amazon.co.uk: Hannu Rajaniemi: Books
http://www.amazon.co.uk/dp/0575088966

非英語圏のSFに関するアンケートの回答が載っている。「第1作目の長篇小説」が「量子怪盗」。
ワールドSF特集 - ハンヌ・ライアニエミ - 26 to 50
http://www.26to50.com/jp/worldsf/worldsf_hannu_rajaniemi_jp_1210.html

The Quantum Thief - Wikipedia, the free encyclopedia(英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/The_Quantum_Thief
The Quantum Theif Wiki(英語)
http://exomemory.wikia.com/wiki/The_Quantum_Theif_Wiki

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