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2013/01/06

ハートの王様 - ハートの7(1-6)

※以上の文章は「ハートの7(1-6)」の内容に触れています。※


2013年の新春テレビ番組をみていたら、トランプのカードに関する問題がでていた。一般的なトランプに描かれた4人のキングに共通していないものを答えよ、というものだ。(1月2日放送の「クイズミリオネア」)

答えは知っていた。ハートのキングには口ひげがない。
ハートのキング
http://www1.icnet.ne.jp/carditian/81_royalKh.htm

補足知識として紹介されたのは、トランプが確立したのは17世紀頃のフランスで、それぞれのキングにはモデルとなった人物がいたこと。ハートのキングはカール大帝(シャルルマーニュ)だ。

ああそうだったのか、と納得。もちろん「ハートの7(1-6)」の話である。


「ハートの7」では、鍵となるモザイク画に描かれた皇帝に関して、次のようなセリフがある。

「この皇帝は、どんなトランプにもあるハートのキング、つまりシャルルマーニュ大帝にそっくりだろ」
「なるほど…(略)」
(「怪盗紳士ルパン」ハヤカワ文庫、P232)…B

待って、そこで納得しないでよ。と思わないでもなかった。

調べて見ると、今でもこのタイプのトランプが流通しているかどうかは分からないが、フランスのトランプのハートのキングには「CHARLES」という名前が書かれている。ちなみに口ひげあり、見出しはK(キング)ではなく、フランス語で「王」を意味するroi(ロワ)のRである。
Roi de coeur - Wikipedia(フランス語。「ハートのキング」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Roi_de_c%C5%93ur

大牟田市立三池カルタ記念館監修の「カルタ」には、1890年頃製作されたフランスのトランプのキングの写真が載っている。ハートの札に書かれているのはやはり「CHARLES」(シャルル)の文字。だから、ハートのキング=シャルルマーニュが常識だったわけだ(シャルルマーニュは「偉大なシャルル」という意味で、個人名としてはシャルル)。


さて。そっくりって、シャルルマーニュの顔知ってるの?という疑問も浮かぶ。原文では、似ているというより、むしろシャルルマーニュの正確な表徴(表現)だと言っている。

- Ce vieil empereur est la representation exacte du roi de coeur de tous les jeux de cartes, Charlemagne. …B

シャルルマーニュの表徴とはなんだろうか。以前から、この話は途中でシャルルマーニュだと分かるように書いていなくてはいけないのではないかとは思っていた。ここより前の描写で分かる箇所はあるのだろうか。


モザイク画の最初の描写ではこうなっている。

見事なあご鬚をたくわえた皇帝が、黄金の冠をいただき、右手で剣をかざしている
(「怪盗紳士ルパン」ハヤカワ文庫、P181)…A

正月のおめでたい絵として七福神が飾られることがあるけれど、大きな袋を担いでいたら七福神の大黒様、釣り竿を持っていたら恵比寿様という風に、絵や像になったときに、一緒に描かれる物がある。シャルルマーニュの場合は、王冠や剣、宝珠などで、皇帝としての権威を示すものでもある。「ハートの7」では、そのなかで、トランプの絵柄と共通する冠と剣、それとひげを選んで描写している。


さらに重要な表現が潜んでいた。

Un empereur couronne d'or, a barbe fleurie, tenait un glaive dans sa main droite. …A

「empereur a la barbe fleurie」といえば、シャルルマーニュなのである。

barbe
(顎と頬の)ひげ、顎ひげ
(「口ひげ」はmoustacheという)
(ロワイヤル仏和中辞典)

fleuri
(5)《古》(髪・ひげが)白い
empereur a la barbe fleurie
白ひげの大帝
[シャルルマーニュ(Charlemagne)のこと]
(ロワイヤル仏和中辞典)

老帝(vieil empereur)という表現からも、モザイク画のひげは、白ひげ(白いあごひげ)だと解釈すべきなのだ。その持ち主はシャルルマーニュと分かる(通常白ひげは「barbe blanche」などと表現する)。白ひげと訳されているのは、手元の訳では新潮文庫とグーテンベルク21(大野一道訳)である。

金の冠をかぶり、まっ白なひげをした皇帝が右手に剣を持っている。(「怪盗紳士アルセーヌ・ルパン」グーテンベルク21)…A


「ロランの歌」に出てくるシャルルマーニュも老帝のイメージだ。

純金こがね作りの玉座一脚、
その上にいまうまし国フランスを統べ給う王。
御髯おんひげは真白に、白髪は花咲く如く、
体躯堂々、威容を誇る。(「フランス中世文学集(1)」P34、「ロランの歌」)


ところが、である。現実のシャルルマーニュにはあごひげがなかったようなのだ。

伝説がこうして発展していくあいだに、シャルルマーニュの容姿も変化していった。アインハルトが当初書き記したシャルルマーニュにはひげがなく、頑健な身体つきをしていた。(じつは、これもようやくここ数年で指摘されるよういなったことなのだが)。ところが、いつからとははっきりいえないが、あるときからシャルルマーニュは「豊かなひげの皇帝」になっていったのである。どうやらアインハルトが「美しい白髪」と書いたものが、流行の変化とともに「白いひげ」になってしまったようだ。(「絵解きヨーロッパ中世の夢」P64)

フランス語版ウィキペディアの「シャルルマーニュ」によると、シャルルマーニュは口ひげ以外のあごひげがなかったそうで…(^^;; 巡り巡って日本では口ひげがないバージョンが流布しているとは。


□参考文献・参考サイト
・大牟田市立三池カルタ記念館監修、宮本貴美子・木村浩司著「カルタ」文溪堂、2006年
・林宏太郎「トランプとタロット」平凡社カラー新書、1978年
・ジャック・ル・ゴフ著、樺山紘一日本語版監修、橘明美訳「絵解きヨーロッパ中世のイマジネール」原書房、2007年
・新倉俊一ほか訳「フランス中世文学集(1)」白水社、1990年(「ロランの歌」神沢栄三訳)
Carte a jouer - Wikipedia(フランス語。「トランプ・カード」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Carte_%C3%A0_jouer
Roi de coeur - Wikipedia(フランス語。「ハートのキング」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Roi_de_c%C5%93ur
Charlemagne - Wikipedia(フランス語。「シャルルマーニュ」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Charlemagne
トランプ - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97
タロットカードとトランプについて。 タロットカード・オラクルカード、タロット占い関連商品通販|カードの履暦
http://www.phgenki.jp/hpgen/HPB/categories/14498.html
文化広報誌:SPAZIO no.65-デューラーの《二皇帝像》と聖なる見世物
http://www.nttdata-getronics.co.jp/profile/spazio/spazio65/akiyama.htm


※以上の文章は「ハートの7(1-6)」の内容に触れています。※

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