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2012/07/05

「アルセーヌ・ルパンとは何者か」感想(その2)

人物像の他に物語のつくりに関しても言及がある。

たとえば、主人公が探偵なら、作者は「探偵がどこを目指していくかを読者は知らない」という利点を使うことができる。探偵は犯人を知らず、読者はその探偵の側にいるからである。反対に、主人公が泥棒であれば、読者にはもう犯人がわかっている。それは主人公に決まっているからだ。(「ミステリマガジン」2012年7月号、P63)

クラルティの文。

シャアロック・ホルムスの場合には、新しい窃盗があり、新しい犯罪に当面する。此処では、私達はアルセエヌ・リュパンが犯人である事を前以って知っています。私達が物語の紛糾した糸を解けば、最後に強盗紳士に相会うようになるのです。(※引用にあたって、「リエパン」を「リュパン」に改めた。「アルセエヌ・リュパン」改造社、1929年、P5)

主人公が探偵の場合と泥棒の場合とでは、物語の筋が違ってくる。というわけだ。犯人がルパンであることが前提で、謎を紐解けばルパンに会うという筋書きはシリーズ最初の「逮捕」「獄中」「脱獄」が典型的だ。ただ、この筋書きの話は、全シリーズ中でもそれほど多くない。

クラルティの文章にある「私達」というのは、絡まった糸を解す主体は読者ということだろうか? 気になるところだ。

「怪盗紳士ルパン」の序文を書いたのはクラルティだが、友人の文士の言葉とされている箇所には、アルセーヌ・ルパンを世に送り出した編集者とルブランの目論見が反映されていると見てもよいだろう。単行本「怪盗紳士ルパン」の刊行は1907年。ルブランのエッセイは1933年。四半世紀の時を経ているが、主張していることは変わらない。

なお、ジュール・クラルティは小説家・劇作家でアカデミー・フランセーズの会員。クラルティは自著にチェーザレ・ロンブローゾに対する献辞を載せていて、犯罪捜査ということに興味があったのかと思う。おそらく、犯罪を描くこの本の序文を書いてもらうのにうってつけの人物だと判断したのだろう。
近代デジタルライブラリー - 心理写真(6コマ目)
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/921748/6


1933年はルパンシリーズの殆どを書き終えた時期である。確かに主人公はアルセーヌ・ルパンという泥棒だが、話のつくりについては、シリーズに進行によって変わった点もあるという。

さて私が思うに、ルパンのシリーズには読者の興味をひく、独創的かつ重要な要素がある。当初私は、そのこともまたすぐには理解していなかった。もっとも文学というのはそういうものだ。書き手は自分が何をしなければならないか、始めたときには予測することはできない。すなわち自分の内側から出てきたものが自分という形になり、そしてしばし自分自身の新発見につながるのだ。話を戻すと、そのルパンにおける読者の興味をひく重要なこととは、現在と過去の関係である。つまり最も現代的なものと歴史や伝説が結びついている。(略)アルセーヌ・ルパンはこうした謎に、いわば趣味ともいえる探求心から挑戦し続けるのである。(「ミステリマガジン」2012年7月号、P64)

ルブラン自身が「三十棺桶島(10)」をあげているが、現代と歴史や伝説との結びつきもたびたび見られる要素であって、シリーズの魅力となっている。


私自身は主人公の性格付けというより中身は変わらないように思う。話が多様になったのは、「最後にルパン」は主人公の登場が遅くなるし、作り自体は難しいためもある思う。「最後にルパン」型の最高潮が「奇岩城(4)」で、大きく歴史がや歴史がからむのも「奇岩城」からだ。「奇岩城」をとらえ直すことで、シリーズの全体の流れが見えてくるのではないかと思う。(「金三角(9)」や「三十棺桶島(10)」はルパンの登場が遅れるが、ルパン自身が謎を生み出していない。)


□参考文献・参考サイト
・「ミステリマガジン」2012年7月号
・ジュウル・クラルティ「序」(「アルセエヌ・リュパン」佐佐木茂索訳、改造社、1929年)
・ジュール・クラルティ「『怪紳士』序文」保篠龍緒訳(名探偵読本7「怪盗ルパン」榊原晃三編、パシフィカ、1979年所収)
・トマ・ナルスジャック「アルセーヌ・リュパン」石川湧訳(「二つの微笑を持つ女」創元推理文庫、1972年所収)
・QUI EST ARSENE LUPIN ?(フランス語。「アルセーヌ・ルパンとは何者か」)
http://www.ebooksgratuits.com/html/leblanc_article_arsene_lupin.html
・Arsene Lupin gentleman-cambrioleur/Preface - Wikisource(フランス語。「怪盗紳士ルパン」の序文)
http://fr.wikisource.org/wiki/Ars%C3%A8ne_Lupin_gentleman-cambrioleur/Pr%C3%A9face


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