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2012/07/05

「アルセーヌ・ルパンとは何者か」感想(その1)

「アルセーヌ・ルパンとは何者か」は1933年に発表されたルブランのエッセイ。

うーん、自分が言葉にしたいことをずばり言われてしまった気がする。ルブランは冷静に見てると思う。

アルセーヌ・ルパンは本人もなぜだか分からないうちに事件に巻き込まれることがある。そして必ず見事にその状況から脱する。この場合見事にというのは、つまり前よりいくらか〝裕福〟になってということである。といっても、ルパンも時には真実を求める冒険の中に飛び込むこともある。そういう時のルパンは、ただ真実だけをポケットにいれて帰ってくるのだ。(「ミステリマガジン」2012年7月号、P64)

っていうくだりとか、かっこよすぎる。


さてこのエッセイ、一読して分かるのは、単行本「怪盗紳士ルパン(1)」に付けられたジュール・クラルティの序文と呼応しているということだ。類似が顕著に現れているのが、「主人公が泥棒であるということ」(訳者による小見出し)が書かれたくだりである。

また、それとは別に、アルセーヌ・ルパンを泥棒であると同時に、好感の持てる青年であるという二重の特徴を持つ主人公に仕立てなければならなかった(小説の主人公は感じがよくなければならないからだ)。そのためにはルパンの泥棒行為が人として許されること、もしくはごく当たり前のこととして読者が受けとれるように、人間味あふれる姿をみせる必要があった。そこでまず、ルパンが私利私欲だけから盗みをするのではなく、盗むという行為そのものを楽しんでいることにした。さらには善良な人々には決して手をださせなかった。そして時には思いきり気前のいいところをみせた。(「ミステリマガジン」2012年7月号、P63)

クラルティの文。

全くアルセエヌ・リュパンは一つの特殊なタイプです。あるいは、既に伝説的な型です。併し、将来にも残るものでしょう。溌剌とした。若い、快活な、予見すべからざる、譏刺的な容貌。泥棒で、強盗、詐欺、掏摸、何とでもおっしゃい。併し、この盗賊は同情深いのです。彼の一挙手一投足は磊々落々です。あの皮肉、あの魅力、あの機智! 彼は好事家ディレッタントです。芸術家です。
アルセエヌ・リュパンは唯窃むのじゃありません。盗んで面白がるのです。かれは選択します。必要に応じて彼は品物を返します。彼は高尚で、魅力に富み、騎士道的で、典雅です。(「アルセエヌ・リュパン」改造社、1929年、P5-6)

次の翻訳の方が分かりやすいかもしれない。トマ・ナルスジャックが書いた評論から。

「アルセーヌ・リュパンは、すでに伝説的となって、永久に残るだろうところの典型である。快活と意表外と皮肉とに満ちた、若々しい、生き生きした人物。泥棒、強盗、詐欺師、いかさま師、何とでも言うがいい、とにかく、まことに感じがいいサンパティク……なんという皮肉、なんという魅力、そしてなんという才気! ディレッタントである。芸術家である」
ジュール・クラルティーは、こう書いた。あの時代に、アカデミー会員ともあろうものが、喜んで推理小説に序文を書いたのだ。(P318)

どうして孫引きしたかというと、「感じがいい」(「好感の持てる」も同じ語)という言葉に気づいたのがこの文章だから。ルブランもクラルティの文章も「泥棒」であることと「感じのいい青年」であることの両立について語っている。

そしてルブランは主人公は感じがいい人物でなければいけないと言っている。「感じがいい」は「sympathique」(サンパティク)。

sympathique
1. 〔人や態度が〕感じのよい、好ましい
2. 【話】〔物、場所が〕気持ちのよい、快い
3. 共感した、共鳴した、同情的な
(小学館ロベール仏和大辞典)

綴りをみるとシンパシーという言葉が浮かぶ。共感という言葉と同じ語源で、そこから感じがいいという意味になったようだ。サンパティクについて調べていて見かけた次のブログがおもしろかった。「人間くさい」という意味内容であれば、「人間くさい」はルパンにぴったりだと思う。喜ぶときは躍り上がって喜ぶし、生のエネルギーに満ちている。

La sympathie 僕のにゃは。。。 livedoor blog
http://malupumila-20.m.dreamlog.jp/yumimiki/c?id=51441096


盗むという行為そのものを楽しんでいるということに関しては、初登場作品の「アルセーヌ・ルパンの逮捕」の単行本化に際しての加筆に現れている。

初出バージョン。

何もかも驚異的で、アルセーヌ・ルパンのユーモアあふれる手口をよくあらわしていた。
間違いなくルパンは、盗みの道の芸術家といえるだろう。(「ミステリマガジン」2012年7月号、P52/アルセーヌ・ルパンの逮捕(1-1))

単行本バージョン。

何もかも驚異的で、アルセーヌ・ルパンのユーモアあふれる手口をよくあらわしていた。たしかに彼は泥棒だが、趣味人ディレッタントでもある。彼にとって盗みとは好きな仕事、天職であると同時に、楽しみでもあるのだ。あたかも自分で演出した芝居を楽しみ、自分で考え出した気の利いたセリフや状況を、舞台裏で大笑いしているかのように。
間違いなくルパンは、盗みの道の芸術家といえるだろう。(「怪盗紳士ルパン」ハヤカワ文庫P21/アルセーヌ・ルパンの逮捕(1-1))

といっても、登場するエピソードは変わらないし、人物像自体に変更がないように見える。これは第一話の性質によるものだと思うが、表に現れている人物がもともと感じのいい人物として書かれていると思うからだ。表に現れている人物と、アルセーヌ・ルパンは近接している。


次→「アルセーヌ・ルパンとは何者か」感想(その2)

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