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2011/08/24

狼憑きリュパンと妖精リュタン

リュパン(lupin)で辞書を引くと載っているのはハウチワマメと言う植物である。この項ではLupinをリュパンと音写する。

lupin
【植物】ルピナス、ハウチワマメ:マメ科のルピナス属 Lupinas の植物の総称。鑑賞用に栽培される。ノボリフジ、シロバナルーピンなど。(「小学館ロベール仏和大辞典」)

でも時代や地方によってはリュパンと呼ばれるものが他にもあるらしい。

リュパン(またはリュバン)とは、夜中に塀に沿って立って月に向かって吠える獣の妖怪である。彼らはきわめて臆病で、だれかが通りかかると、「ロベールが死んだ! ロベールが死んだ!」と叫びながら逃げてゆく。(「フランス田園伝説」P124)

本屋で見たとき思わず噴出してしまいそうになった(何気なく手にとったから不意打ちくらった)。うん、これはクラリス・デティグに名前を知られたくないよね(ノ∀`)


引用したのはジョルジュ・サンド「フランス田園伝説集」(1858年)に収録されている「リュバンとリュパン」(原題「Lubins ou Lupins」)だ。フランス中央部のベリー地方の伝説を集めた本で、ここに出てくるリュパンは狐憑きの狼版といった感じのモノだ。犬に似たすがたをしているとも、しっかりした形のない存在であるともいう。挿絵では狼の姿をとっているが、もともとリュパン(lupin)という言葉が、ラテン語のルプス(lupus)=狼と関係のある言葉だからだろう。

リュバンはそういったもののひとつだ。陰気で不活発な愚かな精霊で、生きているあいだはずっと、墓地の塀にもたれて、ふしぎな言葉で話をして過ごす。場所によっては、彼らが安息の地に入りこんで骨をかじると非難されている。そのばあいには狼狂リカントロープ狼憑ガルーに属する。これはリュパンと呼ぶべきである。(「フランス田園伝説」P125)

リュパンによく似た言葉に、リュタンがある。

「小鬼」としたものは「フォレ」(または「フェ」、「ファデ」)で、本文にもあるが、他の国でリュタンとかコーボルトとかエルフと呼ぶものにあたる小人の地霊、ないし有翼の小妖精で、わが国で言えば「座敷わらし」にあたる。リュタンについては先にもふれたがノディエの『アーガイルの小妖精、トリルビー』が名高い。(「フランス田園伝説」訳者あとがき、P207)

リュタンは小さな妖精全般を指して使われることもあり、リュパンをリュタンの別称とすることがある。

リュタン(小妖精)
リュタンはいたずら好きで、だだっ子のようにうるさく、冗談を言っては陽気に笑う。ちゃらんぽらんな性格のもち主だ。ユタン、リュバン、リュパン、レティアン、リュイトン、リュプロン、リュディオンなどとよばれることもあるが、とにかくつかみどころがない。(「妖精図鑑 ~森と大地の精~」P58)

リュタンのいたずら好きな点はリュパンと似ている(もちろん、アルセーヌの)。リュタンの性質から、「いたずらっ子」という意味も派生しているから、アルセーヌ・リュパンはリュタンだといわれても違和感がない(笑)

lutin
1 (いたずら好きの)小妖精、小鬼、小悪魔
2 【古風】いたずらっ子、腕白小僧(「小学館ロベール仏和大辞典」)

シャルル・ノディエの「トリルビー アーガイルの小妖精」(原題「Trilby ou Lutin d'Argail」)を読むと、アルセーヌ・リュパンもリュタンの血脈が流れているように思えてくる。


「リュバンとリュパン」はフランスの中央部に位置するベリー地方の話である。「フランス田園伝説集」においてサンドがベリー地方とノルマンディー地方には良く似た話があるとして、たびたび書名を挙げているアメリー・ボスケの「ノルマンディのお話とふしぎな世界」(1845年)という本がある。ここには、リュタンの章にリュバン(Lubin)が登場する。

La Normandie romanesque et merveilleuse : Traditions, legendes et superstitions populaires de cette province(フランス語)
http://www.europeana.eu/portal/record/03486/2FC6674A0DDA75EA09B152735103259F2F88D293.html

On connait, en Basse-Normandie, une sorte d'Esprits appeles les Lubins. (P138)
人が知るように、バス・ノルマンディーでは、精霊の一種をリュバンと呼びます。

バス・ノルマンディーはノルマンディー地方の西半分で、モーリス・ルブランの出身地・ルーアンやエトルタは東側のオート・ノルマンディーに属する。こうしたリュパンやリュバンの存在をルブランが知っていると考えるのは容易である。なお、(バス・)ノルマンディーの方言では、リュバンはリュパンと通じるらしい。

L. Du Bois Glossaire du patois normand - L (1856)(フランス語)
http://www.bmlisieux.com/normandie/dubois11.htm

LUBIN : lupin.
LUBINS : sorte de loups-garoux. De lupus.


余談。このくだりを読んで「三十棺桶島(10)」の「妖精のドルメン(Dolmen-aux-Fees)」を思い出した。ドルメンに棲むとされる妖精は、ブルターニュ地方では「コリガン」というらしい。

マルシュ地方(クルーズ県周辺)のドルメンのまわりでは、妖精の類はすべて危険で、人間と見ると敵意をあらわにする。というのも、彼らは大石の下に隠された宝を守っているからだ。(「フランス田園伝説」P71)


□参考文献・参考サイト
ジョルジュ・サンド「フランス田園伝説集」篠田知和基訳、岩波文庫、1988年
「ノディエ幻想短篇集」篠田知和基編訳、岩波文庫、1990年(「トリルビー アーガイルの小妖精」)
ピエール・デュボア著、ロラン・サバティエ絵「妖精図鑑 ~森と大地の精~」鈴木めぐみ訳、文渓堂、2000年
篠田知和基「人狼変身譚-西欧の民話と文学から-」大修館書店、1994年
CiNii 論文 - フランスにおける人狼伝承についての考察:篠田知和基(1988年)
http://ci.nii.ac.jp/naid/120002414723
La bibliotheque George Sand(フランス語)
http://beq.ebooksgratuits.com/vents/sand.htm
George Sand, Legendes rustiques(フランス語。「フランス田園伝説集」)
http://beq.ebooksgratuits.com/vents/sand-legendes.pdf
Oeuvres de Charles Nodier (Open Library)(フランス語。「トリルビー」)
http://openlibrary.org/works/OL1646370W/Oeuvres_de_Charles_Nodier
Lubin (folklore) - Wikipedia(フランス語。「リュバン」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Lubin_%28folklore%29
Lutin - Wikipedia(フランス語。「リュタン」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Lutin
Lycanthrope - Wikipedia(フランス語。「人狼」「狼憑き」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Lycanthrope
Korrigan - Wikipedia(フランス語。「コリガン」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Korrigan

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