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2011/07/31

盗人神ヘルメース - メルキュール骨董店(12-8)

※以下の文章は「メルキュール骨董店(12-8)」の内容に触れています。※


「八点鐘(12)」最後の短編は「メルキュール骨董店」が舞台となっている。店主はメルキュールの像を幸運をもたらすお守りとして大切にしていた。メルクリウス(フランス語ではメルキュール)はローマ神話の神様で、ギリシャ神話のヘルメース(フランス語ではエルメス)と同一視された。

ヘルメース特有の持ち物としては次のようなものがある。ケーリュケイオンはフランス語でカデュセとなる。

ヘルメースの姿は、時代によってその描かれ方が異なるが、古典期以降は、ペタソスと呼ばれる旅行用の鍔広の帽子をかぶり、「ケーリュケイオン」と呼ばれる使者の杖をたずさえ、足には翼の生えたくつを履いた若々しい美青年の姿であらわされるのが常であった。(「ホメーロスの諸神讃歌」P274-275、「ヘルメース讚歌」解題)

テラッコッタのマーキュリー像が安置されていた。片脚で立ち、両足首には羽根が生えていて、おきまりの蛇杖カデュセを片手にしている。(新潮文庫「八点鐘」P353)

そして確かに幸運をもたらす神としての属性がある。

ヘルメースを讃め歌え、ムーサよ、ゼウスとマイアの御子、
キューレネーと羊多いアルカディアを統べる神、
幸運もたらす御使者みつかいを。(「ホメーロスの諸神讃歌」P215、「ヘルメース讚歌」)

メルクリウスの名で、彼は幸運の使者として多くの文学作品に登場する。その役柄上、キリスト教の大天使ガブリエルやミカエルと混同されることもある。(「図説ギリシア・ローマ神話文化事典」P204)

しかし、このヘルメースはとんでもない神様で、生まれたその日に盗みを働いたというエピソードを持つのだ。

その時かのニンフが産んだのは、策略に富み、奸智に長け、
盗人にして牛を追う者、夢をもたらし、夜陰をうかがい、門口を見張る神であった。
この神はさっそくに、不死なる神々の間で聞こえも高い所業を顕わすこととなった。
暁時に生れ落ちると、昼間にははや竪琴をかき鳴らし、
日暮れには遠矢射るアポローンの牛を盗んだのだ。(「ホメーロスの諸神讃歌」P216、「ヘルメース讚歌」)

牛を盗んだ後、何か悪いことをやってきたに違いないと母親に咎められると、悪びれずに言い返す。

「母上、どうしてそんな言葉でわたしをお咎めになるのです。
(略)
父上がお許しにならないとなら、それならばなることができますから、
ひとつ盗賊の頭目になるようにでもしましょう。(略)」(「ホメーロスの諸神讃歌」P224-225、「ヘルメース讚歌」)

なんという赤子(笑)

このように、ユーモアのある形で語られるのだが、最後のあたりでマイナスのイメージが強調される(この部分は後代に足されたものらしい)。

ヘルメースはあらゆる人間や神々との交わりもつ神。
人を益すること少なく、闇垂れこめる夜の続くかぎり、
果てしなく人間のうからを騙し続ける神である。(「ホメーロスの諸神讃歌」P250、「ヘルメース讚歌」)


ヘルメースは盗賊なのだ。ローマ神話のメルクリウスはそもそも「商売」という言葉と同じ語源を持つ商業の神だったが、ヘルメースの神話がそのまま適用された。「レ・ミゼラブル」ではメルクリウスが盗賊の代名詞として使われている。

このような社交界は、オリンポスの山である。メルクリウス神もゲメネ公もそこに一緒に住んでいる。盗賊でも、神ならば、そこに入ることが許されるのである。(「レ・ミゼラブル」3巻P55)

メルキュール骨董店の店主は幸運の神としてメルキュール像を大切にしていた。あるいは盗んだ疚しさから守ってもらおうとしたのかもしれない。しかし、相手が相手、正体が泥棒であってみれば、かなうわけがない。アルセーヌ・ルパンの守護神でもあるのだから。


ちなみに、ヘルメースは牛を盗むときある悪知恵を働かせている。盗んだ牛をそのまま歩かせるようなことはしなかった。

そして足跡の向きを逆にさせ、砂地のあたりでかなたこなたと追いまわした。
策略を用いるのにもぬかりなく、蹄の向きが逆になるように、
前足が後ろに後足が前になるよう歩かせ、じぶんはそれと向き合って歩いた。(「ホメーロスの諸神讃歌」P219、「ヘルメース讚歌」)

(「八点鐘(12)」のある短編が思い浮かぶなあ…)


□参考文献・参考サイト
ルネ・マルタン監修「図説ギリシア・ローマ神話文化事典」松村一男訳、原書房、1997年
ホメーロス「ホメーロスの諸神讃歌」沓掛良彦訳、ちくま学芸文庫、2004年(「ヘルメース讚歌」)
ユゴー「レ・ミゼラブル」佐藤朔訳、全5巻、新潮文庫、1996年(改版)
Hermes - Wikipedia(フランス語。「ヘルメース」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Herm%C3%A8s
Mercure (mythologie) - Wikipedia(フランス語。「メルクリウス」)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Mercure_(mythologie)
nouse ホメーロス「ヘルメース讃歌 (ΕΙΣ ΕΡΜΗΝ)」読解 (ヘルメースの属性に関する部分)
http://yeblog.cocolog-nifty.com/nouse/2007/04/post_bb54.html
テオポリス――ギリシア神話データベース&西洋絵画紹介:ヘルメス(長音表記ヘルメース)
http://www.h6.dion.ne.jp/~em-em/page007.html

メルクリウスとヘルメス

□2011/08/06 最終更新


※以上の文章は「メルキュール骨董店(12-8)」の内容に触れています。※

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