« 《料理する》(その2) | トップページ | 雑誌「イブニング」2011年11号 「アバンチュリエ」第8回 »

2011/05/11

《料理する》(その3)

括弧付きの《料理する》が出てくるのは「ルパンの結婚(6-9)」を含めて4作品ある。

しかし、もっとも人の好奇心をそそったのは、高校の学生のあいだで読まれていたパンフレットだった。タイプライターで書きうつされた十部限定版で、ボートルレのサインが入っていた。表題は『アルセーヌ・ルパン――その古典的かつ独創的方法』というのだった。
これは、ルパンの冒険ひとつひとつについてのくわしい研究だった。あの有名な怪盗の手口が非常にくわしく描きだされていて、実行方法、どれもこれも特殊な策略、新聞への投書、脅迫、ぬすみの予告など、要するに、これと目ぼしをつけた犠牲者を〈料理する〉ために使用するトリック、相手の精神をうまく利用して、みずからわざわざ仕組まれたわなに、いわば同意の上でおちこんでいくようにするためのすべてのトリックが示してあった。(岩波少年文庫「奇岩城」P84/奇岩城(4))

自らの意志で納得して選んだと思わせながら、実際はルパンの思い通りの行動をさせる。「相手の精神を利用する」という、「ルパンの結婚(6-9)」で使った計画の本質が書かれている。つまりボートルレの分析は的確である。

岩波少年文庫版はボートルレが作った小冊子のタイトルが省略されているので、ハヤカワ文庫からも引用しておく。ただしハヤカワ文庫版はルパンのやり口に関して細かな情報が欠けている。

しかしもっとも興味深いのは、同級生たちのあいだでまわし読みされている私家版の小論だった。ボートルレが書き、タイプ印刷で十部ほど刷られた小論は、《アルセーヌ・ルパンとその方法、彼はいかにして古典的かつ独創的たりえたか――およびイギリス的ユーモアとフランス的アイロニーの比較》と題されていた。
これはルパンが関わった事件を、ひとつひとつ徹底的に論じたものだった。そこでは名高い怪盗の手口が驚くほど生き生きと描かれ、犯行のメカニズムと特殊な戦術が紹介されている。新聞への投書、脅迫、盗みの予告。要するに目をつけた標的を《料理》し、被害者自らを飛んで火に入らせるための策略が。(ハヤカワ文庫「奇岩城」P69/奇岩城(4))

なお、「奇岩城(4)」自体が、ルパンがボートルレを《料理する》話だというのが私の解釈である。解釈というよりも、ルパンシリーズを追いかける動機の一つであり、ルパンシリーズを読み解く上での基盤になっている。《料理する》って言う言い方は今ここで初めて使うけれど、やっぱりはまる。


次は「三十棺桶島(10)」。

「偉いぞ、坊や」ドン・ルイスが笑いながら叫んで言った。「痛いところを突いて来たな。あの時すぐに、あいつをつかまえていたら、事件は十二時間もしくは十五時間も早く解決していたはずなんだ。ここで問題なのは、もしそれをしていたら君は助かったかどうかという点だ。あの悪漢が果して君のかくれ場を明したかどうかという点だ。わしは明さなかったと思う。口をわらせるまでには、相当に料理(※)してやる必要があったものね。奴をぼんやりさせ、不安と懊悩で気を変にさせ、あとからあとから証拠を突きつけて、自分は完全に敗北してしまったという気持を植えつける必要があったんだ。(略)」(※「料理」に傍点。新潮文庫「棺桶島」P545/三十棺桶島(10))

この《料理》は辞書の3番よりも2番の意味(尋問する)に近いかもしれない。強制的に有無を言わせず追いつめるやり方は「金三角(9)」と共通する。「ルパンの結婚(6-9)」や「奇岩城(4)」では準備に何ヶ月も費やしているが、「金三角(9)」「三十棺桶島(10)」では時間がないなかで行われた、ひたすら言葉を費やす即興的なものだ。(といっても、出番がなかった分しゃべりたい欲求がたまってただけじゃないか、という気が大いにする・笑)


最後は「バーネット探偵社(15)」。

「ベシュー君、幸い君がいてくれた」ジム・バーネットが繰り返した。「君は当然だがその警官を知っているはずだ。わしらは知っていた、その警官の《料理》を君が一任されていると。だがどうしたら君をここへおびき寄せることが出来るだろうか? 造作もなかった。或る日わしは君の途上に現れた。わしはかねて自分の美人ジプシーを待たせておいたこのトロカデロ広場まで、君に後をつけさせた。小声に交されるふた言み言、この建物への二三度の目くばせ……これで君は罠にかかっていた。わしなり、わしの共犯者なりが逮捕出来そうだと思うと君は熱し出した。(略)」(新潮文庫「バーネット探偵社」P267-268/べシュー、バーネットを逮捕す(15-8))

ベシューがやる《料理》とは捜査というほどの内容だろう。事件の鍵を握る警官を《料理》すべく泳がせていたベシューをバーネットが軽く《料理》して望み通りの場所に導いたのである。さらにひねった方法が「赤い絹の肩掛け(6-5)」でガニマール相手に使われている。餌に使われているのは思わせぶりな仕草だ。

もっと整理することが必要だけど、だいたいの傾向が見えてくる。


前→《料理する》(その2)

« 《料理する》(その2) | トップページ | 雑誌「イブニング」2011年11号 「アバンチュリエ」第8回 »

アルセーヌ・ルパン」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/54863/51638545

この記事へのトラックバック一覧です: 《料理する》(その3):

« 《料理する》(その2) | トップページ | 雑誌「イブニング」2011年11号 「アバンチュリエ」第8回 »

案内

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想

アルセーヌ・ルパン

スキップ・ビート!

鉄人28号

つぶやき

無料ブログはココログ