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2011/03/27

ルパンシリーズの翻訳(大正期・白水社)

大正期に白水社からルパンシリーズの翻訳が三冊出版されている。

「二重眼鏡の秘密」福岡雄川訳、1918年(大正7)(近代世界快著叢書1)…水晶の栓(7)
「巨盗の告白」福岡雄川訳、1918年(大正7)(近代世界快著叢書2)…ルパンの告白(6)
「絶島の秘密」福岡雄川訳、1922年(大正11)…三十棺桶島(10)

翻訳者の福岡雄川は、白水社の創業者・福岡易之助(やすのすけ)のペンネーム(号)と思われる。易之助の翻訳書「怪独艇の大西洋潜航記」が、「二重眼鏡の秘密」の巻末の広告では、「文学士 福岡雄川訳」となっていること。また、易之助は東京帝国大学フランス文学科卒、秋田県の雄物川出身とくれば、間違いないだろう。故郷の川から号を付けたという推測も立つ。

易之助は東京帝国大学卒業後、一度郷里に帰り農村開発に勤しんだが、上京し白水社を興した。そして「模範仏和大辞典」を出版した功績でレジオン・ドヌール勲章を受章している(ジョッフル来日の際に叙勲)。

福岡易之助の生まれた平鹿群雄物川町深井(※)は、合併前まで福地村といった。
深井部落は(略)昔は船着き場として栄え、主として米を土崎の港へ送り出し、帰りには魚類や日用品を積んでのぼって来た物資集散地でもあった。易之助が号を〝雄川〟としたのには、そのように雄物川との深い関係のある土地に生まれた自分を言っている。(※現在は横手市。鈴木安太郎「福岡易之助」)

福岡雄川となっている翻訳でも、福岡以外の人物が訳したものもあるようだ。田中早苗は次のように証言している。

「水晶の栓」は、友人医学士高橋毅一郎君と二人でいとも熱心に翻訳して「二重眼鏡の秘密」と題し、福岡雄川の名を借り(略)て出版した。(「探偵小説問答」)

高橋毅一郎は福岡の同郷人で、白水社の顧問を務めたという。
仕事に関する雑記録
http://www.rockfield.net/bookstore/zaji.htm

福岡と高橋は1885年生まれ、田中は1884生まれと同年輩であり、三人とも秋田の出身であったから旧知の仲だったのだろう。また、短編集「巨盗の秘密」のうち二編について、岸田國士の翻訳との類似が指摘されているらしい。(岸田國士名義で昭和10年頃雑誌「キング」に掲載されている。)

白水社の翻訳は「二重眼鏡の秘密」しか実見していないが、アルセーヌ・ルパンの名前は、星晃と日本人風になっている(何だか流しの歌謡歌手ってかんじ…)。広告などではリユパンと併記された。(後の新聞広告ではルパン表記もある。)

本文 - 白衣の女|近代デジタルライブラリー/[第1冊]〔上〕巻 闇闘の巻(216コマ目)
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/968362/216

現代仏文壇の巨匠、最新探偵文学の権威であるルブランの作中はなはだ趣の異ったもので、非常に偉い星晃(リユパン)は、本篇では初から受身の地位に立ち、悪戦苦闘の限りを尽くし、殊に其秘密は最後まで扉を開かず、読者は波瀾重畳の間宛も美しい迷宮を引廻わされて居ると、最後に猛然と攻勢に転じて、遂に忍耐と正義が勝を制するという、変幻出没極りなき輓近の傑作。


田中早苗は自身の名前でも翻訳を発表している。

「八点鐘」田中早苗訳、博文館、1924年(大正13)(探偵傑作叢書28)…八点鐘(12)
「古代錦事件」(田中早苗訳「現代探偵傑作集」グランド社、1925年(大正14)所収)…白鳥の首のエディス(6-7)

いずれもリユパン表記だ。「八点鐘」のうち、二作品が先行して「新青年」に掲載されたが、そのときは「ルパン」表記で、単行本では「リユパン」表記に改められている。


□おまけ
福岡易之助が訳した「怪独艇の大西洋潜航記」はパウル・ケーニッヒが書いた潜水艇ドイッチュラント号の航行記。
本文 - 怪独艇の大西洋潜航記|近代デジタルライブラリー
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/955992
商用潜水艇 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%95%86%E7%94%A8%E6%BD%9C%E6%B0%B4%E8%89%87

□白水社・近代世界快著叢書

  1. モーリス・ルブラン著、福岡雄川訳『二重眼鏡の秘密』
  2. モーリス・ルブラン著、福岡雄川訳『巨盗の告白』
  3. コナン・ドイル著、芳野青泉訳『恐怖の谷』
  4. コナン・ドイル著、芳野青泉訳『名馬の行方』
  5. アルベール・ボアッシエール著、福岡雄川訳『復讐の結婚』
  6. 弥太吉翁捕物帳 泉斜汀著『乱刀』
  7. リチャード・マーシュ著、芳野青泉訳『甲虫の怪』
  8. ロバート・ルイス・ステヴンソン著、田中早苗訳『漂白の青年』
  9. E・P・オップンハイム著、吉川宏一訳『王妃の恋文』
  10. フレッド・M・ホワイト著、竹中浩訳『怪女王』
  11. フレッド・M・ホワイト著、竹中浩訳『黒い自動車』
  12. マックス・ペンバートン著、福岡雄川訳『要塞の美人』

□参考文献・参考サイト
・矢口進也「続・出版社 最初の本(11) 白水社『郡に在りし頃』」(「日本古書通信」第60巻第10号、1995年)
・鈴木安太郎「福岡易之助」(人・その思想と生涯51、「あきた」103号、1970年12月所収)
・「探偵小説問答」(「新青年」14巻10号、1933年夏季増刊号所収)
・「白水社70年のあゆみ」白水社、1987年
・秋田県立図書館ホームページ(秋田県関係人物文献索引ほか)
http://www.apl.pref.akita.jp/
・近代デジタルライブラリー | 国立国会図書館
http://kindai.ndl.go.jp/


□2012/06/23
本文が見られる。
近代デジタルライブラリー - 二重眼鏡の秘密
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/912698

参考文献。
あきた(通巻103号) 1970年(昭和45年)12月1日発行 -全64ページ-
人・その思想と生涯(51) 福岡易之助/鈴木安太郎
http://common.pref.akita.lg.jp/koholib/search/html/103/103_049.html
ホットアイあきた(通巻374号) 1993年(平成5年)9月1日発行 -全40ページ-
秋田の文学つれづれ(20) 「福岡易之助・滝田樗陰」 編集者たち(上)/文 小野 一二
http://common.pref.akita.lg.jp/koholib/search/html/374/374_032.html

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