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2010/11/17

生田耕作「翻訳研究室」:ルブラン「813」

1959年の「図書新聞」のコラム「翻訳研究室」で、2回ルブランの作品が取り上げられている。担当は生田耕作氏。「813」で対象にあげられているのは、三笠書房の保篠訳、東京創元社の石川訳、新潮文庫の堀口訳である。

引用に当たって見やすくするため改行と空行を入れた。

ルブランの原文は平明であり、誤訳の起こりうる可能性はすくないはずであるが、それでも、ごく初歩的な誤りが散見する。ごく重要な一例だけに限ると

「あんたときたら、心の正しい人ではない。」(堀口訳)
「あなたは正直な人間じゃありません。」(保篠訳)

 ルパンの腹心の老女中ヴィクトアールがルパンに向っていう言葉である。これではルパンは腹黒い悪人ということになり、われわれの脳裡にある颯爽たる紳士侠盗ルパンのイメージは完全にぶちこわしである。

「心の正しい人」は、原文は honnete homme 「堅気の男」の意味。訳者として致命的なミスといわねばならぬ。石川訳は「まともな人間」と正訳している。

いやいや“腹黒い悪人”だと思うけど(笑)
初邦訳の三津木春影「古城の秘密」では、

『貴方は正直なお人じゃない!』(前篇P196)

と訳されている。英訳からの重訳であり英訳が「honest man」なので当然の訳だ。感嘆符も原文になく英訳にある。


どう訳すべきなのか判断することはできないが、honnete homme という言葉は、「813」以外でもたびたび使われている。
ルパンの涙(その4) - まっとうな人間
ルパンの涙(その7) - おわりに

実は「813」より翻訳がばらけているのが「アルセーヌ・ルパンの逮捕(1-1)」だ。
創元推理文庫「怪盗紳士リュパン」入手のこと


このコラムでは、直訳である石川訳を(「水晶の栓」では三輪訳も)支持している。保篠訳は旧来のままとして半ば論外に置かれているのだけれど、堀口訳もこの時点で古めかしいなんて言われているのだから、どんだけ、という感じではある。大家の尻馬に乗っかっていうと、堀口訳の文章が物語の興味をそぐというのに賛成。保篠訳もね。

□参考文献
「図書新聞」510号(1959年7月18日)

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アルセーヌ・ルパン」カテゴリの記事

コメント

お久しぶりです、Ko-Akira さん。
ペレンナです(^一^)

フランス語で書かれた小説って、
英語に慣れきった日本人としては、
なかなか翻訳するのが難しいし、
どう訳すかで、けっこうひと苦労ですよね。。。

>ルブランの原文は平明であり、
>誤訳の起こりうる可能性はすくないはずであるが、
>それでも、ごく初歩的な誤りが散見する

わたしも今までルブランの原文を読んでみたり、
自分なりに、いくつか訳してみたことがあるので、
この言葉には、けっこう、うなづいてしまいます・・・

実は先日、ルブランの若いころの小説である
“La Fortune de M.Fouque ”
(仮題「フーク氏の出世」)を自分なりに訳して、
『モーパッサンを巡って』の管理人であり、
フランス文学の研究家でもある足立さんに
いろいろと添削してもらったことがあるのですが、

原文の意味を取り違えていたり、
誤訳の箇所も多かったりして、
まだまだ修業が必要だなぁ・・・
なんて、思ったりしました(^^;)

来年はルブラン没後70年の節目の年ですので、
わたしも自分のホームページに
著作権が切れたものから順に、
いろいろと翻訳した小説を
掲載していきたいな、と思っています。

Ko-Akira さんも、いろいろとこれから、
ルパンやルブランの研究を
頑張っていって下さい。d(^∇^)

ペレンナさん、お久しぶりです。

ルパンがらみの文章や台詞は、皮肉というか、表現に何かほかの響きが入ってると感じることがあります。因・果の関係は同じなんだけれど、表現をいじってしまうとうまく伝わらないし、かといって、そのまま訳すと日本語文としては遠まわしすぎると感じるかなあと思ったりします。よく分かっていないんですけどね。

誤訳というのは起こりうるものだと思っています。紹介するときも、良し悪しではなく、どういう解釈なのか探るのだというほうを念頭におきたいです。

独力でやるのは大変ですよね。何をどうすれよいのか分からないという。足立さんは親切な方ですね。貴重な経験で、ペレンナさんの解釈がもっとすばらしいものになっていると思います。ホームページの更新を楽しみにしています。

私ができるのは微々たることですが、細く長く続けていきたいと思ってます。

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