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2010/09/29

A・デュマ「ダルタニャン物語」全11巻

鈴木力衛訳、講談社文庫、1975年

パリで一旗揚げようと上京したダルタニャンが、アトス・アラミス・ポルトスの「三銃士」と会うことがら始まる物語。三部からなり、作中で流れる時間は三十有余年。
第1部「三銃士」…1~2巻
第2部「二十年後」…3~5巻
第3部「ブラジュロンヌ子爵」…6~11巻


講談社文庫の「ダルタニャン物語」と偕成社の「アルセーヌ=ルパン全集」は読んでおきたかった。ここで一つ達成。第三部の色恋沙汰でくじけそうになったけれど、まあ一気に読めた。ダルタニャンが一巻まるまる出てこなかったりするし。第一部は岩波文庫で読んだことがあり、それ以降は読んだことがないと思っていたのだけれど、エピソードがいくつか覚えがある。(身体に触れない寸法の取り方とか)

アトスという名前の山を発見したことがあるのだけれど、作中で触れられていて笑った。

あなたは……なんというお名前でしたかな? 待ってください……川の名前……ポタモス……いや……鳥の名前……ナクソス……はい、これも違ったかな! 山の名前……アトス! やっと思い出した!(6巻P465)


口八丁手八丁で、感情のはっきりしているダルタニャンがやはり読んでいて牽引力を持っている。誰かさんが似てるのはやっぱりダルタニャンかなあ。アトスに黙っているように言って、こう言う。

それで、ぼくが二人まえの嘘をつくわけだ。ガスコン人にとっては、そんなことは朝飯まえだからね(10巻P245)


主人公のダルタニャンはガスコーニュ出身のガスコン人だからガスコン人の性質についてよく出てくるのだが、ほかの地方人の性質も出てくる。

翌日、亭主を呼んだが、この男、抜かりのないノルマンディーらしく、質問にはっきり答えたら、身に禍いが降りかかるとでも思うのか、「はい」とも「いいえ」とも答えてはくれなかった。(3巻P159)

この土地の亭主は、正直で人のよいピカルディ人であった。プランシェとは同郷のよしみで、いやな顔ひとつ見せず、こちらの知りたいと思うことは、なんでも教えてくれた。(3巻P160)

ノルマンディーの性質は「奇岩城(4)」で少しふれられている通り。ポルトスはピカルディー、アラミスはブルターニュ、アトスはブロワ(地名であって地方ではない)出身ってことでよいのかな。


ベル・イール・アン・メール(ベリール島)がフーケの所領で重要な舞台として出てくる。しかし悲しい舞台になってしまった。

2010/09/26

中国におけるルパンシリーズの初期翻訳

日本にルパンシリーズが伝来した頃の、中国における状況については以下のサイトが参考になる。

清末小説研究会
http://www.biwa.ne.jp/~tarumoto/


サイトを見るだけでは分かりにくいだけれど、もっとも古いルパンシリーズ作品の翻訳は1911年のようだ。また、いくつかの論文でルパンシリーズあるいはモーリス・ルブランの作品に付いて触れられている。

○大塚秀高「清末民初探偵小説管窺」…『清末小説から』第64号、2002年
http://www.biwa.ne.jp/~tarumoto/k6402.html
ルパンものの翻訳、と思いきや、コナン・ドイルと覚しき探偵が登場するらしい。日本語訳からの重訳の可能性が指摘されているが、先行する日本語訳については以下を参照のこと。
「皇后の頸飾」と「宝石項圜」

○渡辺浩司「《亞森羅蘋之勁敵》と《竊〓案》の原作」…『清末小説から』第87号、2007年
http://www.biwa.ne.jp/~tarumoto/k87.pdf
ルパンもののパスティーシュの紹介。パスティーシュの正体は、アメリカの作家エディス・マクベインの「ラジウム泥棒」と判明する。

○渡辺浩司「《哲理小説 哲學之禍》の原作」…『清末小説から』第88号、2008年
http://www.biwa.ne.jp/~tarumoto/k88.pdf
ルブランの翻訳作品の正体がノンシリーズの「記憶のある男」と判明する。


また、井波律子「中国ミステリー探訪」によれば、孫了紅という人物が1920年代後半から40年代まで発表した作品の主人公が「魯平」というそうで、1925年に刊行された『亜森羅苹案全集(アルセーヌ・ルパン事件全集)』の翻訳にかかわったのを機に創作を始めたことと、「(魯平の)中国音はルーピン(LUPING)であり、ルパン(LUPIN)のもじりである」ことが指摘されている。

魯平ものを紹介しているブログ。
中国推理小説研究会:So-netブログ
http://shangyuancao.blog.so-net.ne.jp/


□参考文献
井波律子「中国ミステリー探訪」日本放送出版協会、2003年
渡辺浩司『清末民初翻訳短篇ミステリ論集』清末小説研究資料叢書12、清末小説研究会、2010年(「《亞森羅蘋之勁敵》と《竊?案》の原作」「《哲理小説 哲學之禍》の原作」)

「皇后の頸飾」と「宝石項圜」
ルパンシリーズの初期翻訳


□2010/10/19 最終更新
□2011/04/25
日本における最初の翻訳とされている「泥棒の泥棒」(原作「黒真珠(1-8)」)は「賊中賊」という題で中国語訳されたらしい。なお、中国における最初の翻訳は「賊中賊」より前にある。
『清末民初小説目録』第4版の訂正
http://www.biwa.ne.jp/~tarumoto/qmbook4.html

□2011/08/27
アジアミステリリーグ - トップページ
http://www36.atwiki.jp/asianmystery/
アジアミステリリーグ - 中国ミステリ史 第二章 - 中国推理小説120年の歴史
http://www36.atwiki.jp/asianmystery/pages/108.html


□2013/08/14
エディス・マクベインの「ラジウム泥棒」が掲載された雑誌を閲覧することが出来る。
McClure's magazine. v.43 1914 May-Oct. - Full View HathiTrust Digital Library HathiTrust Digital Library
http://babel.hathitrust.org/cgi/pt?id=mdp.39015030656089;view=1up;seq=382

2010/09/20

唐招提寺―金堂の技と鑑真和上に捧ぐ御影堂の美―

東京国立博物館 イベント VR映像上映 「唐招提寺-金堂の技と鑑真和上に捧ぐ御影堂の美-」
http://www.tnm.go.jp/jp/event/event/vr.html
上演作品|TNM & TOPPAN ミュージアムシアター
http://www.toppan-vr.jp/mt/work/archive/index.shtml
凸版印刷|ニュースリリース
http://www.toppan.co.jp/news/newsrelease1064.html
会期 2010年7月2日(金)~2010年9月26日(日)の金・土・日・祝日
会場 東京国立博物館 TNM&TOPPANミュージアムシアター

9月20日はなんと東京国立博物館の入館料が無料。見たいけど…と迷ってサイトを見て知って、天の助けと行ってみた。予約をして、上映時間まで本館や平成館の平常展を巡る。特別展がないためか、人出は多くなくゆったり回れた。法隆寺宝物館に行って近代的な建物にびっくり。

ミュージアムシアターはお姉さんの解説をききながら、CGで再現された唐招提寺の金堂と御影堂をめぐる。極彩色によみがえった予想図がすごい。赤じゃなく青や緑の目立つ装飾だった。まだ復元途中で全容がつかめていない図柄もあるようなので、完成したら是非見てみたいと思う。金堂の建物と御影堂の襖に当てていたのでご本尊や、和上の御厨子なども見て見たかった。金堂の鴟尾(しび)は今は新しいものに付け変えられているのだけれど、CGでは創建当時と鎌倉時代に作られたものが載せられていた。

上映後、表慶館の展示を巡って三時間半。コストパフォーマンスの高い一日だった。途中休憩にコーヒーでも飲みたいと思ったのだけれど、東洋館は工事中で、法隆寺宝物館は高級な食事をする店だったのであきらめた。東洋館の前にカフェの仮設店舗があったことに帰りに気づいた。

ああ、唐招提寺に行きたい。

「ゴーゴーミッフィー展」

asahi.com:朝日新聞社 - 「ゴーゴーミッフィー展」
http://www.asahi.com/event/miffy/
ミッフィー誕生55周年 そごう美術館開館25周年記念 ゴーゴー・ミッフィー展
http://www2.sogo-gogo.com/common/museum/archives/10/0911_miffy/index.htm
2010年9月11日(土)~10月11日(月・祝)、そごう美術館


私が行く美術展のなかで、格段に平均年齢が若いというか幼かった。

ディック・ブルーナさんの絵本の中から数点について、下絵や、ボツになった絵やプロット、カラーの原稿など詳しく展示されていた。12種類のレインコートを着たミッフィーがバースデーケーキのデコレーション状態並んでいたのがかわいかった。

ミッフィーは色合いは変わっていないけれど、デザインや使っている技術が変化していて、下書きや、筆入れの課程が詳しく紹介されていた。一筆ではなく、少しずつ微調整しながら描いて行くのがすごい。

自転車に乗るアニメのミッフィーと同じく自転車に乗るブルーナさんのコラボ映像や、まるで本をめくるようにミッフィーが変わる映像など遊び心のある展示も。

ブルーナ氏は若い頃本の装丁を手がけていて、メグレ警視シリーズなどのシムノンの作品やOSS117号シリーズやレスリー・チャータリスの聖者シリーズなども展示されていた。この頃からシンプルを心がけていたようだ。


ミッフィーは「うさこちゃん」か「ミッフィー」かという命題がある。私は、小さい頃「うさこちゃん」を持っていなかったし、NHK教育で長沢彩さんが声の出演をした「ミッフィー」のほうになじみがある。年代順に並べたパネルを見て、初期の耳の先端が細くなっていて、顔の大きいのは「うさこちゃん」だし、現在の丸い耳は「ミッフィー」だなあと思った。展示ではどちらの名称も使われていた。

「ミッフィー」は英語版での呼び方で、原作のオランダ語では「ナインチェ」。日本の翻訳は講談社が「ミッフィー」で、福音館書店が「うさこちゃん」。命名は、初期に翻訳を務められた石井桃子さんだと思う。

2010/09/19

雑誌「小説現代」2009年8月号 「物語日本推理小説史」ルパンとジゴマ

郷原宏「物語日本推理小説史」第十二回
第十二章 ルパンとジゴマ

アルセーヌ・ルパンとジゴマの日本上陸について書かれている。文末にあげられている参考文献は読んでいるので、だいたい見たことのある内容だ。ルパンシリーズの初期翻訳は判然としない部分もあって難しいのだけれど、現在調査中の内容については以下にまとめている。
ルパンシリーズの初期翻訳


記事中一点気になることがある。1916年(大正5)に出版された「変装紳士」の翻訳者の名前が、「後藤末雄・鵜未島保」となっている。しかし、1916年4月13日付朝日新聞の広告では、「文学士後藤末雄・鵜来島保共訳」と書かれているから、「鵜来島保」が正しいのではないだろうか。長谷部史親「欧米推理小説翻訳史」双葉文庫、2007年では「鵜末島保」となっていて、こちらも誤りと思う。
「変装紳士」は登場人物の名前をそのまま音写した最初の翻訳。主人公の名は“アルセーヌ・リュパン”。


「ジゴマ」は1911年に初めて日本上映された映画で、その一部を近代フィルムセンターで見たことがある。

ロシアの探偵物である清風草堂主人「露西亜探偵物語」は1911年に出版され、何度も再販されているのだが、1912年8月23日付朝日新聞の広告で、「ジゴマ以上の世界的大探偵実譚を見よ」と宣伝文句が付けられていて、ジゴマ・ブームの一端が垣間見える。

ルパンシリーズの初期翻訳
映画「ジゴマ」


□2010/12/02
単行本に収録。
物語日本推理小説史 郷原宏 講談社
http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2166216

2010/09/18

Geoportailで18世紀の地図を見る

Geoportailの地図レイヤーのひとつにカッシーニの地図がある。以前からあったようなのだけど知らなくて、ふと選んでみると古そうな地図が出てきたので驚いた。

Geoportail - le portail des territoires et des citoyens(フランス語)
http://www.geoportail.fr/


カッシーニの地図は18世紀に、セザール=フランソワ・カッシーニとジャン=ドミニク・カッシーニ親子によって作られた地図だ。カッシーニ家は4代に渡ってパリ天文台の所長を務めている。

カッシーニの地図
Carte de Cassini - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Carte_de_Cassini
地図の歴史 / 近代
http://atlas.cdx.jp/history/modern.htm


地図があるとなれば、例のアレを探したくなるのが人情。

1. Geoportailのトップページを開く。
2. 地図がフラッシュ表示に変わって少し経つと、右上の小窓に「Falaise d'Etretat」が出てくるのですかさずクリック。
3. ポップアップの「Information」が表示された場合は閉じる。
4. 地図左の「Catalogue」から
  CARTES
   └Carte Cassini(Ehess/Ldn)
を選ぶ。


Etretat - Geoportail(外部リンク)

Eguille dEtretat

あれ? 暗号が成立しなくなってしまうよ?(笑)

この程度の表記のゆれはよくあること。しかしこれによって、語頭の音はエイではなくエであることが分かる(aiはエと読む)。ジョルジュ・デクリエールのテレビドラマや、1960年のラジオドラマで話されているのを聞くと、エギュイとかエギュイユというふうに聞こえる。最近の翻訳ではエギーユと書かれることが多い。


□参考サイト
La carte de Cassini en couleur - Geoportail - le portail des territoires et des citoyens(フランス語)
http://www.geoportail.fr/5061756/actu/5430711/la-carte-de-cassini-en-couleur.htm
ModeleGeoportail - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Mod%C3%A8le:G%C3%A9oportail
官製地図を求めて-各国地図事情 フランス France
http://homepage3.nifty.com/homipage/map/map_france.html

GeoPortailで100年前のパリを知る
GeoPortailでエトルタを探そう(第2弾)
ジェオポルタイユ(GeoPortail):フランスの衛星写真・地図サイト

奈良の古寺と仏像

2010年7月7日(水)~9月20日(月・祝)、三井記念美術館
平城遷都1300年記念 奈良の古寺と仏像展 會津八一のうたにのせて:東京展
http://butsuzo.exhn.jp/
三井記念美術館:開催中の展覧会
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html


音声ガイドは加賀美幸子アナウンサー(元NHK)。これは聞くしかないでしょ。おかげでしっかりと解説と會津八一の歌とを満喫することができた。

美術館の内装の一部にはもとの三井家の屋敷だったものが使われているらしく、第一展示室などはちょっぴりお屋敷風だった。サロンにいくまでの通り道という感じで、その奥にメイン会場がある。

点数はそれほど多くないからゆったり回ることができた。展示の中に昔の鶴瓶も負けたと思われるアフロな仏様が(笑) やはりビジュアルにインパクトがあると惹かれる。

會津八一 法隆寺夢殿救世観音
あめつちに われひとりゐて たつごとき このさびしさを きみはほほゑむ

2010/09/15

野内良三「ジョーク力養成講座」

大修館書店、2006年
大修館書店:ジョーク力養成講座
http://plaza.taishukan.co.jp/shop/product/detail/21037

ユーモア、エスプリ、ジョークとは何かなど分析しつつ、実習問題なんかもついていてなかなか実践的なものとなっている。

まずユーモアとエスプリの関係。世間の風評ではイギリスはユーモアの国で、フランスはエスプリの国だとか。なんとなく分かるような気もするが、やはり釈然としない。実はユーモアとエスプリにはよく知られた定義がある。それによれば「わたしは愚図だ」というのがユーモアで、「きみは愚図だ」というのがエスプリだという。なるほど少々単純化の嫌いはあるけれども、両者の違いを確かに浮き彫りにはしている。(P131)

「きみは愚図だ」というと、

「ベシューは阿呆だ」(「バーネット探偵社」新潮文庫P266/べシュー、バーネットを逮捕す(15-8))
<< Bechoux est une poire. >>

が思い出されるわけですが。

ユーモアと違ってエスプリは優越感に基づく攻撃的な笑いである。エスプリは機略縦横・才気煥発な言葉のやりとりで、知性が強く求められる(ちなみにエスプリは「精神」「知性」を意味するフランス語)。エスプリは軽妙洒脱な受け答え、寸鉄ひとを刺す言葉にほかならない。(P134)

こうかかれると、皮肉(イロニー)と区別があいまいになってくるかもしれない。本書にもエスプリは皮肉に通じると書いてあるし。どちらもフランス的なもの、だろうしね。


ところで、ベルギー・ジョークではこれが好き。(ベルギー人はこの種のジョークでは度し難いおばかさん扱いされている)
・ベルギーの潜水艦を沈めるにはどうすればいいか。
 ―潜水夫に潜水艦の窓をノックさせればいい。

こんなところに税関? - 奇岩城(4)

クロード・モネの絵に「ヴァランジュヴィルの税官吏小屋」という作品がある。この絵に関して、佐々木三雄・綾子/文「モネの風景紀行」では次のように書かれていた。

モネはヴァランジュヴィルの崖にあった税官吏小屋を数点描いた。(略)「税官吏小屋」と呼ばれて名前が一人歩きしてしまった小屋だが、これは正確な呼称ではない。歴史はナポレオン時代までさかのぼる。ナポレオンは海上で英国と戦うのは不利と考え、経済的に英国を孤立させようとヨーロッパの同盟諸国に働きかけて「大陸封鎖」すなわち英国の商品をヨーロッパ大陸から追放する条例を発布した。そこで英仏海峡を渡って英国の商船がフランスへ来るのを見張るために建てた小屋だったのが、なぜか「税官吏小屋」といわれるようになってしまった。そしてモネの時代は漁師たちが道具置場に使用していた。(P40-P41)

モネの絵は、La maison du douanier(税関吏の家)ともLa maison du pecheur(漁師の家)とも呼ばれているようだ。

Varengeville-sur-Mer - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Varengeville-sur-Mer
Fichier:Claude Monet 029.jpg - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Fichier:Claude_Monet_029.jpg


思い出されるのが「奇岩城(4)」の次の箇所だ。なぜこんなところに税関の役人がいるのだろうか?と気になっていたのである。

三十分ばかりのぼると、高台に出たが、近くに、平らな土地を掘って建てた小屋がひとつあった。沿岸税関吏の隠れ家として使われている小屋だった。と、まさしくその税関吏が小道のまがり角にあらわれた。(岩波少年文庫「奇岩城」P372)

douanierは辞書を調べると税関吏と載っているので、空港とか港とか固定の場所に設けられた税関で働く人と思ってしまうけれど、それだけではないらしい。地方の治安を守る組織は中央の警察組織とは違っていて、ルパンシリーズで地方で事件が起こって出動するのは憲兵や田園監視人だ。さらに税関吏が登場することもある。

「テレーズとジェルメーヌ(12-3)」では、事件が発覚したとき、市長(町長)と田園監視人が出向き、遺体を運び込んだ別荘の入り口を税関吏2人がガードしている。「カリオストロ伯爵夫人(13)」ではよからぬことを企む一味が税関吏を警戒している様子が書かれている。どちらもエトルタ付近、ノルマンディーの海岸地帯である。

貸別荘の一軒の入口に大勢野次馬が集まっていた。二人の警備員が入口を守っていた。(※警備員と訳されているのが税関吏。「八点鐘」新潮文庫P121/テレーズとジェルメーヌ(12-3))

「静かにしろ! おれたちの声だって気づかれるぞ」
「誰にだい、ゴッドフロワ? 人っ子ひとりいないじゃないか。それよりか、税関の役人は大丈夫なんだろうな?」
「心配ない。信用のおける男に頼んで、酒場で一杯やらせてある。でも、見まわりがあるかもしれないからな」(「カリオストロ伯爵夫人」ハヤカワ文庫P79/カリオストロ伯爵夫人(13))

港に着いた船を点検するというイメージどおりの仕事も行っている(アメリカの税関吏だけど)。

タラップが下された。だが僕らが自由に下りるより先に、税関吏や制服の男達、郵便配達夫なぞいう連中が、船内へ入り込んで来た。(「強盗紳士」新潮文庫P25/アルセーヌ・ルパンの逮捕(1-1))


税関吏は現在、関税間接税総局(DGDDI)で組織されている。当時とは事情が違うかもしないけれど、英語版ウィキペディアより引用してみる(自動翻訳)。

Directorate-General of Customs and Indirect Taxes - Wikipedia, the free encyclopedia(英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/Directorate-General_of_Customs_and_Indirect_Taxes

DGDDIは、間接税を課して、密輸を防止して、境界を監視して、偽金を調査することに対して責任があるフランス法執行機関です。機関は、沿岸警備隊、境界ガード、海救出組織と出入国管理サービス(関税サービスだけでなく)の働きをします。

武装しているとあるので、軍人ぽい感じもする。


なお、「奇岩城(4)」で出てくる税関吏小屋は、ディエップとトレポールの中間にあるビヴィルの近くにある。正確に言えば、パルフォンヴァルという谷を上ったところで、この谷は断崖から内陸のヌーヴィレットに及んでいることが地図で確認できる。ジョルジュ・カドゥダルが通ったのも史実らしい。

Biville-sur-Mer - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Biville-sur-Mer
Georges Cadoudal - Metapedia(フランス語)
http://fr.metapedia.org/wiki/Georges_Cadoudal
Parfondval - Geoportail(「奇岩城」ではParfonvalと綴られている)


□参考文献・参考サイト
佐々木三雄・綾子/文、山口高志/写真「モネの風景紀行 ノルマンディー・ベリール・パリ・セーヌ河のほとり」求龍堂、1996年
Direction generale des douanes et droits indirects - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Direction_g%C3%A9n%C3%A9rale_des_douanes_et_droits_indirects
Histoire de la douane militaire (France) - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Histoire_de_la_douane_militaire_%28France%29

2010/09/11

佐々木三雄・綾子/文、山口高志/写真「モネの風景紀行」

求龍堂、1996年
モネの風景紀行 ノルマンディー・ベリール・パリ・セーヌ河のほとり
http://www.kyuryudo.co.jp/shopdetail/049005000003/order/

モネに関する本は多く出ているけれども、これは“ビンゴ”だった。モネの絵のモチーフとなった土地を訪ねていて、半分をノルマンディーに割いている。ノルマンディー部分の殆どがカラー写真なのも嬉しい。ルーアン、ディエップ、ヴァランジュヴィル、エトルタ、ル・アーヴル…、いずれもルパンシリーズやルブランに縁のある土地だ。(ジヴェルニーも名前だけならルパンシリーズに出てくる。)


はじめにより。

「ル・アーヴルとルーアンとパリは一つの町をなし、それゆえ、セーヌ河はその道である」と言ったのはナポレオン。とすれば、モネはナポレオンが言うところの一つの町でその生涯を全うしたことになる。(P4)

ルパンシリーズで引用されていないのが不思議なくらいだ。ナポレオンが1802年に言ったのはこんな言葉(少し異同があるみたいだけれど)。

≪Paris-Rouen-Le Havre, une seule ville dont la Seine est la grande rue .≫

Le Figaro - Economie En 2020, le TGV reliera Paris au Havre en 1 heure 15(フランス語)
http://www.lefigaro.fr/economie/2009/06/05/04001-20090605ARTFIG00557-en-2020-le-tgv-reliera-paris-au-havre-en-1-heure-15-.php


「カリオストロ伯爵夫人(13)」に出てくるボンヌショーズ枢機卿は実在したのかと知ったり。

あと数日で連作が完成しようとしていた一八九三年三月二十三日、大聖堂玄関はボンヌショーズ枢機卿の墓除幕式のために黒幕で覆われていた。(P15。※「連作」はルーアン大聖堂を描いた連作のこと)

Henri de Bonnechose - Wikipedia(フランス語)
http://fr.wikipedia.org/wiki/Henri_de_Bonnechose


エトルタの箇所で、モネとモーパッサンが1885年にエトルタで交流したことが書かれている。モーパッサンはモネについて、1886年に「ある風景画家の生活」と題する文で書いた。モネは1885年10月13日の手紙でモーパッサンについて触れている。

Monet/Maupassant, Etretat - 1885 : ces Horribles travailleurs du reel - Cairn.info(フランス語)
http://www.cairn.info/revue-d-histoire-litteraire-de-la-france-2003-1-page-93.htm


モーパッサンとエトルタ

2010/09/08

「スキップ・ビート!」の台湾ドラマに関するニュース 4

制作が延期されている、「スキップ・ビート!」の台湾ドラマについて、男主人公が韓国のSuper Juniorというグループの崔始源(シウォン)さんと東海(ドンヘ)さんで撮影開始、というようなニュースを見つけました。紹介を見ると、崔始源さんが尚役で東海さんが蓮役かなと思います。主人公・キョーコ役は、当初からのアリエル・リン(林依晨)さん。

SJ崔始源?海林依晨再?前? 三角恋即将上演-????(中国語)
http://ent.cqnews.net/ylove/201009/t20100901_4565122.htm
SJ崔始源東海將出演《華麗的挑戰》 - 秦教主看韓劇 個人取向 - udn部落格(中国語)
http://blog.udn.com/zoe88tao/4369938

一方で、キョーコ役も別の女優さんに交代するのではないかという情報もあるようです。
レコードチャイナ:アンジェラ・チャン“求愛宣言”の期待、「スキップ・ビート!」ヒロイン決定か?―台湾
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=43012&type=5&p=3&s=no


スーパージュニア - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%8B%E3%82%A2

2010/09/06

「花とゆめ」2010年19号 スキップ・ビート!感想

著者:仲村佳樹


前回ラストでちおりんが“フェアリー”という言葉をつぶやいていた。それは蓮ではなく、キョーコのことらしい。芸能界というおとぎの世界で生きる、役を与えられれば何度でも生まれ変わる不死蝶=妖精(フェアリー)。ちおりんの心の師・Mr.Dが探している人間。ちおりんはそれをキョーコに見いだす。


蓮はDARK MOONの最終回ロケのカーアクションの撮影待ちらしい。運転はスタントなしで蓮が行う。キョーコは少し迷って、ロケバスの蓮に挨拶に行く。蓮は、共演俳優の貴島が席をたったことを察知して、素早くキョーコをBOX“R”のロケ地の方向に連れ出す。すばらしい危機管理(笑) 貴島はふだんのキョーコはまったく眼中にないと言い切っているんだけど、共演女優さんたちの、ナツ姿のキョーコが普段の2倍大人っぽくて美人という、ほめ言葉に興味がわいたらしい。貴島に興味を持たれてライバル増えたら困るからねえ。

キョーコは、危険なアクション・シーンがあるのを知ってお守りを渡そうと思ったのだけれど、お守りを渡すということは危険な目にあうという前提みたいじゃないですか、危険な目になんかあわないからいらないはずと告げる。そのかわりに、気をつけてくださいね、と言って去る。蓮はローリィがキョーコをお守りといったのは、何か前提があったのか?と疑問が浮かぶ。

BOX“R”のロケ現場に戻ったキョーコだったが、プリンセス・ローザのネックレスがはずれてしまった。


蓮の人気に怒って帰ろうとするちおりんの後ろで、心配そうにロケバスを見やるキョーコの表情がいい。蓮目線で見下ろされるキョーコがしっとりとしてきれい。そんなキョーコをほめようとしてうっちゃられた蓮台詞がむなしい(笑)


次回20号はお休みで21号から再開。
「スキップ・ビート!」感想のバックナンバーはこちらから。

「赤い数珠」「ジェリコ公爵」はいかにしてルパンシリーズ(?)となりしか

未整理の情報が流布しているアルセーヌ・ルパンシリーズだが、混乱を引き起こしているもののひとつに、非ルパンもののルパンシリーズへの混在がある。ありていに言えば、偕成社アルセーヌ=ルパン全集でなぜ「赤い数珠」「ジェリコ公爵」が別巻扱いではないのか、ということだ。

東京創元社から発行されたアルセーヌ・リュパン全集は全12巻であり、第12巻には「赤い数珠」「ジェリコ公爵」が収録されている。付録の小冊子、および解説でリュパン物ではないことが明記されているのだが、装丁や扉は他の巻と同じである。そのためか、後に創元推理文庫に収録されたとき、表紙に書かれたのは「アルセーヌ・リュパン・シリーズ」の文字だった。さらに、偕成社アルセーヌ=ルパン全集で別巻ではなく本編に組み込まれてしまう。


東京創元社アルセーヌ・リュパン全集は、戦後初めて完訳を謳った全集で、シリーズの全容を明らかにするという志はしっかりしていたのだが、その志が後に伝わらず、全集に収録されているという部分のみが踏襲されてしまったのだろう。解説で「赤い数珠」にリュパンを登場させてリュパン物に変えてしまった先行訳を批判しているにかかわらず、混乱を引き起こす種となってしまったのは皮肉なことだ。

純粋のリュパン物だけを十一巻に編集し、十二巻目にリュパン物以外のルブランを代表する推理冒険物を加えました。(「アルセーヌ・リュパン 1」(「アルセーヌ・リュパン全集」第1巻の付録)の編集室だより)

リュパンの活躍しないルブランものの好例(「アルセーヌ・リュパン 11」(同第12巻の付録)の編集室だより)


他の全集にも入っているという指摘もあろうが、最終的に「バルタザールのとっぴな生活」が別巻となったのに2作品が残ったのは、ルパンシリーズとノンシリーズの区別を明確にしようとしていながら、結局東京創元社の全集を踏襲してしまったからと思われる。

よくいいわけとして使われる、ルースラン判事がでてくるから、ルパンと似ているからというのは後付けなのである。(似ているってのも大方嘘だ)


「アルセーヌ・ルパン」邦訳一覧(別表)
創元推理文庫:アルセーヌ・リュパン・シリーズ他
偕成社:アルセーヌ=ルパン全集
ルパンシリーズ翻訳事情

2010/09/01

NHK BShiで「ルパンに食われた男 モーリス・ルブラン」再放送予定

モーリス・ルブランを扱ったドキュメンタリーがNHKのBSハイビジョンで再放送されるようです。ナビゲーターは豊川悦司さん。放送予定は2010年9月4日(土)17:00~。

NHK 番組表:世界・時の旅人「ルパンに食われた男 モーリス・ルブラン」
http://cgi4.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2010-09-04&ch=10&eid=29069
チャンネル:BShi
放送日 :2010年 9月 4日(土)
放送時間 :午後5:00~午後6:00(60分)

NHK BSオンライン:ドキュメンタリー
http://www.nhk.or.jp/bs/genre/documentary.html


「ルパンに喰われた男 モーリス・ルブラン」2005年11月18日放送

三津木春影「古城の秘密」(「新青年」版)

「新青年 第19巻(昭和13年)合本6」本の友社、2003年
初出:「新青年」1938年7月特別増刊号(昭和13)

「813(5)」の翻案で、雑誌「新青年」の増刊号に収録されたもの。元は1912年に単行本として発売され、前編が近代デジタルライブラリーに収録されているが、完全な形で読むのには困難がともなう。ということで、この省略版を読んでみることにした。しかしやはり省略が多いようだ。元が前・後篇の2冊に分かれているものを、長編読みきりにまとめようってんだから、当たり前なのだけど。


「古城の秘密」はアルセーヌ・ルパンが仙間龍賢という風に、固有名詞が日本風に改められているものの、おおむね忠実である。しかし、部分的に改変がある。

たとえば、ルノルマン部長(原作での名称を用いる)が、ルパンの代わりにと手下の一人を逮捕させた後(ここまで原作にあり)、ルパンの隠れ家を探り、一網打尽に捕らえることになっている。この場面、新青年版では不可解だった。捕らえられた中に、マルコとルパンがいるのだ。その後に、ルパンからルパンを奪い去るという公開状が出される。曰く、

即ち五月三十一日の金曜日を期して、龍賢と丸吉らを奪い去るつもりなり。(「新青年」P23)

果して此奇怪なる公開状は、同日の、都下の所有あらゆる夕刊新聞紙上に印刷された。そして幾百万読者を驚倒させたのであった。(「新青年」P23)

龍賢はルパン、丸吉はマルコのこと。牢屋の中に入っているルパンがルパンを奪い去る? どこから公開状を? と不審に思って、近代デジタルライブラリーの単行本を確かめてみた。


即ち来る五月三十一日の金曜日を期して、龍賢の贋者、瀬利田、丸吉其他を奪い去るつもりなり。

果して此奇怪なる公開状は、同日の都下の凡有あらゆる夕刊新聞紙上に印刷された。そして幾百万の読者を驚倒させたのであった。(単行本P162)

ああ、神戸警部が龍賢と目したのも、蓮田大探偵が龍賢と思って捕縛したのも、真の龍賢ではなかったのか! 事件は真に根底から転覆った。そして真の龍賢が公表したこの大胆な公開状はどうだ!(単行本P162)

元の単行本では、逮捕されるのはルパンの偽物なのだ。


それから、判断が難しい箇所。

『さァ。話すのだ。話すのだ。是非話してくれ。儂はお前の友人じゃ。儂は数だけは知っている。八百十三。』
『ハチ、イチ、サン!』
 一語初めて迸った。(「新青年」P22)

元の単行本ではこうだ。

『さァ。話すのだ‥‥‥‥話すのだ‥‥‥‥是非話してくれ‥‥‥‥わしはお前の友人じゃ‥‥‥‥私は数だけは知って居るのじゃ‥‥‥‥八百十三‥‥‥‥。』
『八一三!』
 一語初めて迸しった。(単行本P152-153)

「八一三」という表記がどのように読むべきととらえていたか判断がつかない。「八百十三」と「八一三」と表記が異なるのだから別の読み方だと考える人もいるだろうし、ハッピャクジュウサンを強調するために「八百十三」という表記を使ったとも言える。いずれにせよハチ、イチ、サンと区切ってしまうと一語にならない。


省略版でも面白かったのだけれど、元の単行本が読みたい。

国立国会図書館 NDL-OPAC(書誌 詳細表示 ):古城の秘密 : 武侠探偵. 前篇
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000563023/jpn
本文 - 古城の秘密|近代デジタルライブラリー
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/947412

近代デジタルライブラリー:三津木春影作品

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