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2010/08/23

近代デジタルライブラリー:清風草堂主人作品

清風草堂主人の著作で国立国会図書館に所蔵されている作品がすべて近代デジタルライブラリーで公開されたので、内容を整理したいと思う。「書誌」欄は国立国会図書館の書誌情報に、「本文」欄は近代デジタルライブラリーの本文にリンクしている。

近代デジタルライブラリー | 国立国会図書館
http://kindai.ndl.go.jp/

No作品書誌情報(奥付)書誌本文
A『露西亜探偵物語』
収録作:二滴の血痕、佳人の運命、大盗来
万里洞、1911年4月(明治44)
著者兼発行者 宮田暢
書誌本文
B『仏蘭西物語』
収録作:恋の仇討、新聞記者の内幕、跛の幽靂
万里洞、1911年10月(明治44)
著者兼発行者 宮田暢
書誌本文
C『金髪美人』明治出版社、1913年1月(大正2)
著者 安成貞雄/発行者 竹内伊四郎
書誌本文
D『血痕』万里洞書店、1913年10月(大正2)
著者 宮田暢/発行者 豊田章
書誌本文
E『土曜日の夜』
附録:皇后の頸飾
磯部甲陽堂、1913年11月(大正2)
著者 三津木春影/発行者 磯部辰次郎
書誌本文
F『夜叉美人』
附録:泥棒の泥棒
サンデー社、1915年8月(大正4)【改版】
著者 宮田暢/発行者兼印刷者 岩崎勘兵衛
書誌本文
G『秘密の墜道』
附録:特別列車の行方
磯部甲陽堂、1915年12月(大正4)
著者 清風草堂主人/発行者 磯部辰次郎
書誌本文
H『運命の女』サンデー社、1916年8月(大正5)
著作者 宮田暢/発行者 岩崎勘兵衛
書誌本文

A、Bはアンソロジー、C、D、Hは長編で、E、F、Gには表題作のほか、附録として1作品が収録されている。国会図書館に所蔵がない清風草堂主人の著作では、アルセーヌ・ルパンものの『予告の大盗』が明治44年に出版されている。『夜叉美人』の初版が出版されたのも明治44年である。


□内容について
内容を見ると、大きく3つに分けられる。

1. プチリンもの
『露西亜探偵物語』(Aの3作品)、『血痕』(D)、『夜叉美人』(Fの表題作)、『運命の女』(H)
『血痕』(D)は「二滴の血痕」(Aの1)の改題、『運命の女』(H)は「佳人の運命」(Aの2)の改題。
ロシア人プチリンの活躍を描いたもの。後述。

2. アルセーヌ・ルパンもの
『金髪美人』(C)、『土曜日の夜』「皇后の頸飾」(Eの表題作と附録)、「泥棒の泥棒」(Fの附録)、『秘密の墜道』(Gの表題作)
フランスの探偵小説の翻訳。以下を参照のこと。
ルパンシリーズの初期翻訳

3. その他翻訳もの
『仏蘭西物語』(Bの3作品)、「特別列車の行方」(Gの附録)
『仏蘭西物語』のうち、「恋の仇討」はシャルル・ポール・ド・コックの作品とある。「新聞記者の内幕」で「文士アレーヴヰーが筆記」とあるのは、ジャック=フロマンタル・アレヴィ、レオン・アレヴィ兄弟のどちらかかもしれない。「跛の幽靂」は未詳。「特別列車の行方」の原作はコナン・ドイルの「臨時急行列車の紛失」(「消えた臨時列車」)。

「明治大正期文芸書総目録」では、『仏蘭西物語』『露西亜探偵物語』が宮田暢(清風草堂主人)の著作に、『血痕』『金髪美人』『夜叉美人』『運命の女』が清風草堂主人の著作に分類され、『土曜日の夜』のみ清風草堂主人の翻訳に分類されているが、ほとんどは翻訳ものとみなすべきだろう(『秘密の墜道』は掲載なし)。三津木春影も翻訳に「古城の秘密」「函中の密書」「金剛石」とあって、その他著作となっているが、著作の中にルパンものの翻訳「大宝窟王」がある。


□清風草堂主人について
清風草堂主人作品の多くは日本初の週刊誌「サンデー」に掲載されたものだ。「サンデー」の創刊号から「夜叉美人」が連載され、その後掲載された作品を含め次々と「サンデー記者 清風草堂主人」名義で単行本化された。雑誌掲載時には別名義や無署名であったりした。

清風草堂主人を名乗ったのは一人ではないと考えられている。その正体として名前があがるのが、佐藤緑葉、安成貞雄、堺利彦だ。「サンデー」で翻訳されたロシアもの(プチリンもの)は、夏秋亀一が資料を提供し、佐藤緑葉が書いたと言う。とはいえ、すべての作品を緑葉が担当したかどうか定かではない。アルセーヌ・ルパンものは、『金髪美人』を安成貞雄が担当したことはほぼ確定している。『予告の大盗』は堺利彦、「春日燈籠」(『土曜日の夜』の初出時の題)は安成貞雄が担当したとされるが、ほかは未確定。その他の翻訳物の翻訳者も不明である。

奥付情報を見ると著者として宮田暢の名前があるが、宮田暢は「サンデー」の経営者(副社長)だから発行責任者と考えられる。『土曜日の夜』には三津木春影の名前があるが、『土曜日の夜』の初出「春日燈籠」は安成貞雄の翻訳と言われており、『金髪美人』「春日燈籠」「皇后の頸飾」の3作は関連性が高いため、奥付が誤っている可能性がある。


□プチリンものについて
プチリンものに分類したものはいずれもロシア・サンクトペテルブルク(『露西亜探偵物語』ではセントピータースブルグと表記され、『夜叉美人』では改版によりペトログラードに変更されている)の警視庁刑事課長・武智林次郎(たけちりんじろう)が登場する作品である。武智ははしがき等ではプチリンと紹介されている。プチリンとは誰かというと、イワン・ドミトリエヴィッチ・プチーリンだ。1866年に創設されたペテルブルク刑事警察の初代長官を務めた。名声で知られ、プチーリンを主人公とする架空の物語も多く出版されたらしい。私の興味がアルセーヌ・ルパンにあるためか、探偵小説の翻訳史で、イワン・プチーリンに触れた文章を目にしたことがない。

清風草堂主人名義で出版されたプチリンものに、モデルとなった実在の事件や、原作となった小説があるかは不明である。『露西亜探偵物語』の小引には「本書の主材は露国事情に精通せる在ハルビン夏秋亀一氏の口述に依れり」とあり、『夜叉美人』のはしがきには「在ハルビン夏秋亀一君の供給に係かれり(略)努めて小説的叙述を試みたれば」とあり、プチーリンが手がけた事件を元に小説化したという体裁をとっている。

なお、ロシアの現代作家ユゼフォヴィチにも、プチーリンを主人公とした作品があるらしい。


余談ながら、夏秋亀一は国立国会図書館の目録には読みが「ナカバ カメイチ」と登録されているが、「ナツアキ カメイチ」の情報もある。また宮田暢も読みが「ミヤタ ノブ」と登録されているが、「宝石」1953年4月号の安成二郎「探偵小説昔ばなし」では「みやたちょう」とかなが振ってあった。


□参考文献・参考サイト
・『明治大正期文芸書総目録』日外アソシエーツ、2007年
▽清風草堂主人について
・安成二郎「探偵小説昔ばなし」、「宝石」1953年4月号
・伊藤秀雄「ルパンの伝来について」、「日本古書通信」1980年2月号
・長谷部史親「『探偵雑誌』と安成貞雄」、「古本便り 響宴」4号(1986年)
・伊藤秀雄『明治の探偵小説』晶文社、1986年
・中島河太郎『日本推理小説史』第1巻、東京創元社、1993年
・『安成貞雄 その人と仕事』(『安成貞雄文芸評論集』編集委員会編著)不二出版、2004年
・伊多波英夫『安成貞雄を祖先とす ドキュメント・安成家の兄妹』無明舎出版、2005年
・田中英夫『山口孤剣小伝』花林書房、2006年
▽プチリンについて
・革命前のロシアにおける探偵小説の歴史から
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Studio/4616/jar/detektiv.htm
CiNii 論文 - 革命前のロシアにおける探偵小説の歴史から:久野康彦、2001年
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001249323
・CiNii 論文 - ロシアのホームズたち (革命前のロシアの探偵小説について):久野康彦、1998年
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004837017
・桜井厚二「ロシア刑事探偵のフォークロア」
http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/coe21/publish/no23/04sakurai.pdf
「スラブ・ユーラシア学の構築」研究報告集 文化研究と越境:19世紀ロシアを中心に(2008年)
http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/coe21/publish/no23/contents.html
・閑話傍題(アネクドートの小部屋): ロシア悪人列伝(最終回)
http://www.rosianotomo.com/blog-anekdot/archives/2005/06/10.html
・Путилин, Иван Дмитриевич - Википедия(ロシア語Wikipedia。プチーリンの項)
http://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9F%D1%83%D1%82%D0%B8%D0%BB%D0%B8%D0%BD,_%D0%98%D0%B2%D0%B0%D0%BD_%D0%94%D0%BC%D0%B8%D1%82%D1%80%D0%B8%D0%B5%D0%B2%D0%B8%D1%87
▽夏秋亀一の名前について
・国立国会図書館 NDL-OPAC(書誌 詳細表示 ):「最新統計学」夏秋亀一著
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000454462/jpn
・沢田和彦「日本における白系ロシア人史の断章」
http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/publictn/47/47-emb/Sawada2.pdf
CiNii 論文 - 日本における白系ロシア人史の断章 : プーシキン没後100年祭(1937年、東京):2000年
http://ci.nii.ac.jp/naid/120001452188
夏秋亀一に「なつあきかめいち」とふりがなあり。
・トロイツカヤН. A.(訳:有泉和子)「ロシア極東アルヒーフ文書に見られる日本および日本人」
http://src-h.slav.hokudai.ac.jp/coe21/publish/no17/02troitsukaia.pdf
CiNii 論文 - ロシア極東アルヒーフ文書に見られる日本および日本人:2006年
http://ci.nii.ac.jp/naid/40015138024
Нацуаки(ナツアキ)が夏秋亀一とされている。
▽宮田暢の名前について
・国立国会図書館 NDL-OPAC(書誌 詳細表示 ):「株式会社法実務篇」宮田暢著
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000552052/jpn
▽ユゼフォヴィチについて
・NISSO LTD (ロシア・CIS諸国の本と雑誌の店)
http://www.nisso.net/
ロシア新刊・新入荷・在庫カタログ 2005 年9-10 月(ユゼフォヴィチのプチーリンものあり)
http://www.nisso.net/PDF/2005-5.pdf
ブッカー賞(ユゼフォヴィチの本あり)
http://www.nisso.net/osaka/booker.asp
・Leonid Yuzefovich - Wikipedia, the free encyclopedia(英語。ユゼフォヴィチ)
http://en.wikipedia.org/wiki/Leonid_Yuzefovich


□関連記事
ルパンシリーズの初期翻訳
近代デジタルライブラリーで新資料提供開始(2010年7月):清風草堂主人
近代デジタルライブラリーで三津木春影「大宝窟王」ほか提供開始
「皇后の頸飾」と「宝石項圜」


□2010/08/26
久野康彦「ロシアのホームズたち」に、ロマン・ドーブルィ『ロシアの天才探偵プチーリン』(1908年)中の一編「センナヤ広場の救世主教会のカジモド」の梗概が紹介されているが、プチーリンの活躍を友人の医師が語るというスタイルは『夜叉美人』に通じる。『夜叉美人』には首の無い死体が出てくるので、「Одиннадцать трупов без головы」(11の首無し死体)が気になる。

Гений русского сыска И. Д. Путилин - Википедия(ロシア語Wikipedia。「ロシアの天才探偵プチーリン」の項)
http://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%93%D0%B5%D0%BD%D0%B8%D0%B9_%D1%80%D1%83%D1%81%D1%81%D0%BA%D0%BE%D0%B3%D0%BE_%D1%81%D1%8B%D1%81%D0%BA%D0%B0_%D0%98._%D0%94._%D0%9F%D1%83%D1%82%D0%B8%D0%BB%D0%B8%D0%BD
Шеф сыскной полиции Санкт-Петербурга Иван Дмитриевич Путилин: Сочинения в 2-х т. Т. 2 - Google ブックス(ロシア語。プレビューあり)
http://books.google.co.jp/books?id=99Ss5aQqO7UC


□2010/10/13 「特別列車の行方」の原作判明


□2012/06/23
参考文献
あきた(通巻75号) 1968年(昭和43年)8月1日発行 -全64ページ-
人・その思想と生涯(20) 安成貞雄/伊多波英夫
http://common.pref.akita.lg.jp/koholib/search/html/075/075_049.html

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