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2010/08/11

「皇后の頸飾」と「宝石項圜」

「清末小説研究会」という研究サイトがあり、論文が多く掲載されている。清末期には欧米からの翻訳小説も多く出版されていて、中にはモーリス・ルブランの作品もある。

清末小説研究会
http://www.biwa.ne.jp/~tarumoto/


近代デジタルライブラリーで新たに公開された「皇后の頸飾」を読み、同じく「王妃の首飾り(1-5)」の翻訳である「宝石項圜」という作品が扱われている論文を思い出して改めて読んでみた。(「宝石項圜」自体は未見)

大塚秀高「清末民初探偵小説管窺」
http://www.biwa.ne.jp/~tarumoto/k6402.html

フロリアニ勲爵士が「騎兵中尉」という役職名であること。
ロアン枢機卿の甥が枢機卿の位を継いだと書かれていること。
アンリエットの名前に「鞠子」(「皇后の頸飾」)、「末蘭」(「宝石項圜」)とMの音が入ること。
回転窓が「空気抜けの窓」(「皇后の頸飾」)、「通気口」(「宝石項圜」)となっていること。

など著者が不審とあげている箇所のいくつかは「皇后の頸飾」と共通点がある。推測どおり原作と中国語訳の間に日本語訳の「皇后の頸飾」があったのではないだろうか。ただし、「皇后の頸飾」はほぼ原作どおりの翻訳である。

頸飾の盗難犯=アルセーヌ・ルパンであることは、明言されていない。仄めかされているだけなのだ。極めてあからさまに。正体をただちに明かさないことが復讐でもあろう。頸飾の盗難犯=ルパンが成り立つのは、ルパンシリーズの1作品として発表されているからで、そうでない場合は、アルセーヌ・ルパンという人物の特質も、「エコー・ド・フランス」がルパンの機関紙であるという性質も知りえない。「宝石項圜」の作者はそこを利用して、頸飾の盗難犯と事件を解明する人物とを分離させたのではないだろうか。

「皇后の頸飾」は清風草堂主人「土曜日の夜」に収録されており、国立国会図書館の近代デジタルライブラリーで閲覧できる。

清風草堂主人訳『土曜日の夜』磯部甲陽堂、1913年(大正2)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000529940/jpn
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/906873/112

「土曜日の夜」の表題作は「やまと新聞」に掲載された「春日燈籠」を改題したものだ。署名の「清風草堂主人」は複数人が使用した共同ペンネームで、名前だけでは誰か断定することはできない。ルパンシリーズの翻訳「金髪美人」(原作は「金髪婦人(2-1)」)を出版したのは安成貞雄と断定されており、「土曜日の夜」の初出「春日燈籠」も安成の翻訳とされているので、「皇后の頸飾」も安成の翻訳である可能性は高い。奥付には三津木春影の名前があり、三津木もルパンシリーズの初期翻訳者として活躍しているのだが、「金髪美人」「春日燈籠」「皇后の頸飾」は同じ翻訳者だと考えたほうが自然で、安成が正しいのではないかと思う。


「土曜日の夜」の状況は不明だが、「夜叉美人」改版のはしがきに「尚お本書は清国に於て漢訳せられ尠からざる歓迎を受けたり」とあり、清風草堂主人の著書が中国語に翻訳されていたらしいことが分かる。
清風草堂主人著『夜叉美人』サンデー社、1915年(大正4)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000539355/jpn
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/917431/5


論文の最後に、包天笑という人の「奇岩城(4)」の翻訳「大宝窟王」の名がある。目録で確認できる名前は「大宝魔王」であるようだが、「大宝窟王」にせよ「大宝魔王」にせよ、三津木春影「大宝窟王」の影響を感じずにはいられない。三津木春影「大宝窟王」は「奇岩城(4)」の翻訳で、1912年に前篇、1913年に後篇が出版されている。英訳からの重訳である。


近代デジタルライブラリーで新資料提供開始(2010年7月):清風草堂主人
ルパンシリーズの初期翻訳

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