近代デジタルライブラリーで新資料提供開始(2010年7月):清風草堂主人
近代デジタルライブラリーに、清風草堂主人「金髪美人」が新たに追加されたので読んでみた。「金髪婦人(2-1)」の翻案で、固有名詞は日本風になっているが、普通の翻訳に近く読みやすい。
本文 - 神出鬼没金髪美人|近代デジタルライブラリー(69コマ目)
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/906952/69
私共――有村龍雄と、作者たる私とは、狩戸町のとあるささやかな料理店で晩餐を取って居った。
こう云うと、諸君は怪しむかも知れない。御前は、有村龍雄の仲間かと、然し、そうではない。私は、有村の友人である。偶然の機会から知合になったが、有村龍雄は、個人としては、実に親切で、男気があって、上品で、快活で申し分のない友人である。のみならず、有村は、博学多才、機智湧くが如く、談話に長じて居る。一日語合って居っても飽きる事がない。否、それでも却って時の過 つ事の早いのを憾 ませる位の談話家 である。加うるに、六歳にして鳥居伯爵家に伝わった皇后の頸飾を盗んで以来、三百有余の犯罪は、みな各々一個のローマンスである。それを上手に、目の前に人物が活躍する様に話すのを聞けば、何人も、其面白さに酔わされないものはあるまい。(清風草堂主人「金髪美人」P123 ※有村龍雄はアルセーヌ・ルパンのこと)
皇后の頸飾など「怪盗紳士ルパン(1)」を踏まえて内容が補足されている。「怪盗紳士ルパン(1)」を読んでいるのだろう、
そこで、近代デジタルライブラリーで何気なく検索してみると、発見できた。清風草堂主人『土曜日の夜』に収録されている「皇后の頸飾」だ。もちろん「皇后の頸飾」は「王妃の首飾り(1-5)」の翻案、表題作の「土曜日の夜」は「ユダヤのランプ(2-2)」の翻案、というよりむしろ「春日燈籠」の改題だった。本邦初訳といわれる「泥棒の泥棒」も近代デジタルライブラリーで公開されていること、また、清風草堂主人『秘密の墜道』の表題作は「遅かりしエルロック・ショルメス(1-9)」の翻案であることも分かった。
以下にまとめてみる。(リンクの上は国立国会図書館の書誌情報、下は近代デジタルライブラリーの本文)
●清風草堂主人著『金髪美人』明治出版社、1913年(大正2)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000530019/jpn
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/906952
「金髪婦人(2-1)」の翻訳。ルパンの名前は
●清風草堂主人訳『土曜日の夜』磯部甲陽堂、1913年(大正2)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000529940/jpn
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/906873
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/906873/112
表題作は「ユダヤのランプ(2-2)」の翻訳で、「やまと新聞」に掲載された「春日燈籠」の改題。付録の「皇后の頸飾」は「王妃の首飾り(1-5)」の翻訳。どちらもルパンの名前は
●清風草堂主人編『秘密の墜道』磯部甲陽堂、1915年(大正4)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000528873/jpn
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/905689
表題作は「遅かりしエルロック・ショルメス(1-9)」の翻訳で、途中、「王妃の首飾り(1-5)」と「謎の旅行者(1-4)」のエピソードが挿入されている。ルパンの名前は
●清風草堂主人著『夜叉美人』サンデー社、1915年(大正4)
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000000539355/jpn
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/917431/78
付録の「泥棒の泥棒」は「黒真珠(1-8)」の翻訳。初出は雑誌「サンデー」で本邦初めての翻訳と言われる。ルパンの名前は
この本は改版で、明治44年に万里洞から刊行されたものが最初だが、初版にも「泥棒の泥棒」が収録されていたかどうかは不明。
『土曜日の夜』の序文では、次のように既訳の総ざらいがされている。ルパンシリーズ最初の単行本ラッシュが分かる。(「金剛石」が省かれているのは「金髪美人」と原作が同じだからだろう。)
「皇后の頸飾」はリユーパンの生い立を描けるもの、リユーパンを主人公とせる「予告の大盗」「金髪美人」「古城の秘密」「大宝窟王」等を読めるものは、必ず此の小篇を読まざるべからず。(清風草堂主人『土曜日の夜』序)
と、ここで混乱する出来事が。『土曜日の夜』の奥付に「著者 三津木春影」とあるのだ。「清風草堂主人」は複数人の共同ペンネームらしく、正体が三津木春影でもおかしくはないのだが、「春日燈籠」は安成貞雄が手がけたと言われているからだ。
1.三津木が「春日燈籠」(「土曜日の夜」)、「皇后の頸飾」を訳した。
2.安成が「春日燈籠」(「土曜日の夜」)、「皇后の頸飾」は三津木が訳した
3.三津木は責任者だった
4.奥付情報の誤り
真相はどうなのだろう。
→近代デジタルライブラリーで三津木春影「大宝窟王」ほか提供開始
→近代デジタルライブラリーで三津木春影「古城の秘密」提供開始
→ルパンシリーズの初期翻訳
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