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2010/07/20

ジュヌヴィエーヴとルパン - 813(5)

※以下の文章は「813(5)」の内容に触れています。※


考察と言うよりも随想で、取り留めのないところがあるかもしれないけれどご容赦を。(とりとめがないのは毎度のことだが。)

数あるルパンシリーズの中でも「奇岩城(4)」と「813(5)」は“アルセーヌ・ルパンの物語”としての主題がもっとも色濃くでていると思う。「813」は「813」「続813」と分冊されることが多いが、併せて一つの作品である。「813」で印象的なシーンの一つが次の箇所だ。


野望が打ち砕かれ、絶望に襲われたルパンは、懐かしい老女とその養い孫である少女が住む家に行く。ジュヌヴィエーヴに救いを求めたいのだというルパンと会わせたくないヴィクトワールの押し問答の後、ヴィクトワールはジュヌヴィエーヴがいる中庭に面した窓を開ける。

そこでルパンが見たのは、今まで体験したことがない光景だった。ジュヌヴィエーヴは自分の学校の生徒たちにとりかこまれて、愛情いっぱいに何かを教えている。

私はこのシーンを絵のようだと思う。外には、太陽の光を浴びたジュヌヴィエーヴがいる。日のあたらない室内にルパンがいる。ルパンには今回の事件で体験したことが逃れがたい闇としてまとわりついている。(外が晴れているとか書かれていないわけだけれども。)


ルパンにはいろいろなものが影を落としている。“三つの罪”は無論のこと。ルパンが見ているものとは対照的な存在があった。外にいる娘と同じような金の髪を持った娘。だんだんと精神の均衡を失い、周りから見捨てられて、自らの名前も言えなくなってしまった。彼女にはキスの雨を降らせてくれる存在がいなかっただろう。

ジュヌヴィエーヴが運営するのは遅れてきた子供たちのための学校だ。当時フランスでは義務教育制が敷かれていて無償で教育を受けることができた(ルパン自身もその恩恵に預かっている)。義務教育では目が行き届かない子供たちのための学校で、授業料ではなく外部からの寄付金を頼って運営していると思われる。生徒は女の子だけのようだ。たぶん、本当に私の勝手な想像だけれど、たぶんその中には金髪の少女と似た症状の子供もいたのではないだろうか。


ジュヌヴィエーヴには彼女が愛する、彼女を必要としている小さな存在がたくさんあって、この時のルパンには引き離せるわけが無い。彼女は出来すぎた女性ではあるのだけれど、そこには、できた面しか見ることができないルパンの弱さが潜んでいる。彼女の幸せや生き方を決め付けて、彼女の愛がどこに向かっているのか、彼女自身の生き方を見ようとしなかった。見ることができなかったのだ。まぶしくて、やましくて。ここで、それをまざまざと見せつけられる事になる。

彼女たちを見つめるルパンには、今までに持ったことのない気持ちが芽生える。しかし、毒されてしまったルパンはその気持ちを膨らませて咲かせきることができないのだ。自業自得、っていう大前提があるわけだけど、それでも。というよりむしろだからこそ、とても美しくて、とても残酷なシーンだと思う。


□蛇足1
「813」には、犯罪者の子供は犯罪者、ある種の病気持ちの子供は病気持ち、そういう風な考えがないではない(一方は自分の罪から逃れたいがために言うのであり、一方は罪を信じたくないため思うのだが)。けれど、一方では、その連鎖を断ち切る可能性を示しているのかもしれない。

□蛇足2
ビクトワールは彼をじっと見つめたまま、ゆっくりとくりかえした。
「では、ほんとうに、あの娘といっしょに生活したいというのね?」
ルパンは一瞬、ほんの一瞬、ためらった。それからはっきりとうなずいた。(偕成社文庫「続813」P376)

彼女がゆっくりと繰り返した、じっと彼を見守りながら、
「では本当にあなたはあの娘にルパンの生活を分けようというのですね?……」
彼は一瞬ためらった、ほんの一瞬。その上で、はっきり今度は肯定した、
(新潮文庫「続813」P344)

どうしてためらったか。分かちあうのが他ならぬ“ルパンの生活(vie de Lupin)”だったから。


※以上の文章は「813(5)」の内容に触れています。※

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