« ギュンター・リアー、オリヴィエ・ファイ「パリ 地下都市の歴史」 | トップページ | 鉄人28号の絵馬が登場 »

2010/02/08

気谷誠「西洋挿絵見聞録」

アーツアンドクラフツ、2009年
西洋挿絵見聞録:アーツアンドクラフツ
http://www.webarts.co.jp/book/book_052.htm
ビブリオテカ グラフィカ(著者のブログ)
http://bibliotheca-g.jugem.jp/

挿絵本についての本。挿絵本とは文芸書で、上質な紙や活字を用い、版画にも贅を尽くしたものに、本をしのぐ費用を投じて製本をほどこしたものというところか。興味深く一気に読めた。著者の本に対する情熱や、フランス文学への造詣の深さが伝わってくる。


西洋では、仮綴じの状態で出版されて、買った人たちが自分の趣味にしたがって装丁を施すというのは知っていたけれども、そこに情熱を傾ける愛書家たちも登場する。購入したボードレールの『悪の華』初版本を彫刻家ロダンに届け、余白に自由に絵を描かせ、名製本家の元で製本させるということをした人も。この世に一冊の本を独り占め。まさに贅沢。


ベル・エポック期には、理想の挿絵本を自ら出版する愛書家たちも現れる。そのなかで一人で破格の挿絵本を出版したのがルネ・デカン=スクリーヴという人。出版した本はジョゼ・マリア・ド・エレディアの『戦利品(トロフェ)』だ。

 内容も破格なら価格も破格の八〇〇フラン。これに製本をするとさらに数倍の費用がかさむ。当時、パリに留学していた上田敏に文部省から支給された額が月に三七〇フラン。上田は訳詩集『海潮音』にエレディアの詩三篇を収めているが、この本を目にしたとは思えない。(P176)

著者は八〇〇フランを今日の一〇〇万円くらいかと見積もっている(P8)が、すごい値段だ。この本が出版されたのは一九〇七年。上田はちょうど「怪盗紳士ルパン(1)」が出版されたころパリにいたということか。ルパンは『戦利品』に納められたソネットの一説をもじったりもしているのだが(「虎の牙(11)」)、この豪華版を持っていたりして。


すごい値段といえば、本の装丁を宝石や貴石で飾る宝石本だ。中でも有名なのが一九一一年にイギリスで完成した宝石本で、販売価格一〇〇〇ポンド(五〇〇〇ドル)で目録に掲載された。今日の価格でおよそ一〇〇〇万から二〇〇〇万円と見積もっておられるが、結局アメリカの書籍業者に二〇五〇ドルで落札される。しかし、落札者の元へ届けられる際タイタニック号に積み込まれ、海の藻屑と消えた。

貧乏人からすると、本を宝石で飾るなんて趣味悪っと思ってしまうのだが、そこは意匠によるわけで。審美眼のない私にはよく分からない。

宝石本の写真が紹介されている。
宝石本とタイタニック | ビブリオテカ グラフィカ
http://bibliotheca-g.jugem.jp/?eid=65


フランスの作家シャルル・ノディエが書いた短編『ビブリオマニア』は、「愛書家のために愛書家が書いた愛書家必携の小説である」らしい。

 前述のノディエの小説『ビブリオマニア』は、蒐書熱に憑かれた愛書家が、わずかだけマージン(余白)の大きなエルゼヴィア版を買い逃し、悶絶の挙句に息絶えるという話である。(P222)

仮綴で出版され、後から製本されるし、持ち主がが変わるとあらたに製本し直されることも多々あるため、製本のたび小口が裁断され、本のマージンが狭くなってしまう。だから、マージンが大きい方が貴重らしい。そのなかでもエルゼヴィア版とはこの版専用のマージンを測る物差しが作られたというくらい愛された小型版のこと。ノディエ自身も生涯マージンの大きな『ウェルギリウス詩集』(エルゼヴィア版の三大美書のひとつ)の入手を願ったが、ついに叶わなかったようだ。


「アルセーヌ・ルパンの脱獄(1-3)」でルパンが持っている「エピクテトス入門」は1634年にライデンで出版された版のもの。これはエルゼヴィア版なのでは?(エルゼヴィアは16世紀末にオランダのライデンで創業された出版社)

ルパンはギリシア古典好きだし、ルパンシリーズにも古書趣味が出てきますね(「ジョージ王の恋文(15-2)」ではセーヌ川のヴォルテール河岸で商うブキニストと呼ばれる露天の古本屋で買った本が問題になる)。

ブキニストを描いた版画
西洋挿絵見聞録 50.(ベルエポック編-11, 7月31日新聞掲載) | ビブリオテカ グラフィカ
http://bibliotheca-g.jugem.jp/?eid=141


『西洋挿絵見聞録』  気谷誠著  (アーツアンド クラフツ・3990円) / 西日本新聞
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/book/review/20100124/20100124_0001.shtml

« ギュンター・リアー、オリヴィエ・ファイ「パリ 地下都市の歴史」 | トップページ | 鉄人28号の絵馬が登場 »

書籍・雑誌 」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/54863/47516337

この記事へのトラックバック一覧です: 気谷誠「西洋挿絵見聞録」:

« ギュンター・リアー、オリヴィエ・ファイ「パリ 地下都市の歴史」 | トップページ | 鉄人28号の絵馬が登場 »

案内

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想

アルセーヌ・ルパン

スキップ・ビート!

鉄人28号

つぶやき

無料ブログはココログ