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2010/01/04

ポプラ文庫クラシック「奇巌城」入手のこと

南洋一郎文、2010年

分厚い分、背表紙の著作・タイトル表示が中心からずれてしまているので、できるだけずれのないものをと選んだ(そうすると、表紙の絵が背表紙にずれこむのだけど)。

これは声を大にして言っておきたい。地図にしっかり「奇巌城」が書かれているけれど、ポプラ社版「奇巌城」に「奇巌城」は出てきませんから! 本来出てこないのが正解なんだけどねえ…。


ポプラ文庫クラシックの怪盗ルパン全集シリーズのテキストは、現在流通している新訂版のルパンシリーズではなく、過去に発行されていた「怪盗ルパン全集」の、それも初版に基づいているらしい。実は、「怪盗ルパン全集」は初期のものと後期のものでは改訂されていて文章が違う箇所があり、「怪盗ルパン全集」と新訂版の違いよりも、「怪盗ルパン全集」初期と後期の違いの方が大きいのだ。


そこで内容を確認してみた。今回のポプラ社文庫クラシック版を「クラシック」とし、「文庫版 怪盗ルパン 奇巌城」2005年初版を「新訂文庫版」とする。

その城は三百年もむかしの国王ルイ十三世式の古い城館で、屋根のとんがった小塔や鐘楼がいくつも立ちならび、その中央に、ひときわ高い、巨大な針のような尖塔が、天をつきさすようにそびえたっている。
「あの大尖塔があやしい。あのなかにとじこめられているのかもしれない」(クラシックP165)

その城は三百年もむかしの国王ルイ十三世式の古い城館で、屋根のとんがった小塔や鐘楼がいくつも立ちならび、その中央に、ひときわたかい、巨大な針のようにとんがった塔が、天をつきさすようにそびえたっている。
「あの塔があやしい。あのなかにとじこめられているのかもしれない。」(新訂文庫版P128)

以前国際子ども図書館に出向いて初期の版(初版かどうか不明)を確認したことがあるが、ここは覚えている。怪盗ルパン全集の初期は「尖塔」で、後期は「塔」だったので、たしかに、初版を元にしているようだ。
「尖塔」と「塔」。一字違いで大違い。「尖塔」というのは屋根の上の飾りで、ふつう人が住んだり入ったりできる大きさではない。(原作は「尖塔」であり、この部分のイジドールの推論はポプラ社版の創作。原作と比較しようとしているわけではないので、これ以上は触れない)


以下、クラシック版を読んでいて気になった箇所、気づいた箇所をあげてみる。比較しようと読んだわけではないので違いのうちのほんの一部だ。

「即死です。短剣のひとつきが致命傷です」
医者がいった。
「客間のマントルピース(壁へはめこみのだんろ)のかざりだなの上にあった短剣ですね。茶色の革帽子とならべてあった」
判事がいった。
「そうです」伯爵がこたえた。
「短剣は小銃などの武器といっしょに、装飾用に客間の壁にかけてあったのです。帽子は犯人のものにちがありません」
「昨夜の兇行当時のようすを、できるだけくわしくお話ねがいたいのですが」(クラシックP32)

「即死です。短剣のひとつきが致命傷です。」
と、医者が説明した。
「昨夜の凶行当時のようすを、できるだけくわしくお話ねがいたいのですが。」(新訂文庫版P23-24)

「茶色」の帽子はほかの箇所では「黄色」。まあ誤差の範囲。こんな風に、現在の新訂版では文章が省略されている箇所がある。このあとしばらく会話だけの文章が続くが、後期のテキストおよび新訂版では判事と伯爵が会話をしているという情報が省略されているため誰と誰の会話なのかが分かりにくくなっている(「伯爵がこたえた。」の後に改行が入らない方が分かりやすい)。また医者の登場シーンが削られているため、唐突の感もある。


四月の太陽はあかるく笑っている。(クラシックP113)

六月の太陽は明るく笑っている(新訂文庫版P86)

六月が正解。


「ぼくは、城内を調べるために、ひとりで夜中に城壁をのりこえて、しのびこもうと思うんです」
「いや、あの高い城壁は、かんたんにはのりこえられません。それに、すごい猛犬が二頭いますからね。ぼくの母が一時あすこに住んでいたことがある。そのとき飼っていたやつが、まだそのまま、いまでもおっぱなしてあるんです」
「犬は毒殺すればいい」
「そいつはかわいそうだが、しかたがない。けれど犬をころしても、建物のなかへしのびこむのがむずかしい。古い城ですから、戸じまりは厳重だし、窓には鉄格子があり、扉はすごくがんじょうです。たとえ、しのびこめたとしても、どこにルパンがいるか、どの部屋にきみの父がとじこめられているか、さがしだすのが大変です。なにしろ、部屋数が八十もあるんですよ」(クラシックP10)

「ぼくは、城内を調べるために、夜中に城壁をのりこえて、しのびこもうと思うんです。」
「いや、あの高い城壁はのりこえられません。秘密のくぐり戸からはいるほかに方法はありません。そこからしのびこんでもどこにルパンがいるか、どの部屋にきみのお父さんがとじこめられているか、さがしだすのがたいへんです。なにしろ、部屋数が八十もあるんですよ。」(新訂文庫版P132)

しかたがないのかよっ。毒殺は穏やかではないので削ったほうがよいだろう。


「坊やさま……坊やさま……」
 乳母のビクトワールが、小さいときにルパンを呼んだとおなじように、そう呼びながら(略)(クラシックP322)

「坊っちゃま……坊っちゃま……」
 ビクトワールが、小さいときにルパンを呼んだとおなじように呼びかけ、(略)(新訂文庫版P242)

坊やさま? 見慣れぬ。


シャロレー(P306)がシャルロー(P307)になっているのは校正ミスだろうか? 一部用語の統一がとれていないものがある。挿絵は奈良葉二氏だが、私には見覚えがない。テキストと同じく「怪盗ルパン全集」の初版の挿絵が元らしい。私が昔読んだ版では中村英夫氏が担当していたらしい。ただし、表紙の題字のフォントは初期と後期で変わっているらしいのだが、今回のポプラ文庫クラシックは初版のものではないらしい。

新訂版で行われている用語の言い換えはないようだ。巻末の用語についての注意書きに「原作者および翻訳者の意図」と書かれているのだけど、あくまで南版は南版だなあと思う。


ポプラ文庫クラシック「怪盗ルパン全集シリーズ」刊行予定

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コメント

クラッシク版のページ数をC、初版のをE、昭和58年7月30日の第71刷をSとします。
CとEとの、当方不所持の「新訂文庫版」とSとの比照ですが、両者おなぢは煩を恐れおなぢとします。
なお、昭和47年12月15日の40版と云うものがあり、これが挿絵は中村英夫(後のシュガー中村)、文章は旧版と云う過渡期のものが存在しますが、今手許にないので省略に及びます。
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その城は三百年もむかしの国王ルイ十三世式の古い城館で、屋根のとんがった小塔や鐘楼がいくつも立ちならび、その中央に、ひときわ高い、巨大な針のような尖塔が、天をつきさすようにそびえたっている。
「あの大尖塔があやしい。あのなかにとじこめられているのかもしれない」(C165)E154
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その城は三百年もむかしの国王ルイ十三世式の古い城館で、屋根のとんがった小塔や鐘楼がいくつも立ちならび、その中央に、ひときわたかい、巨大な針のようにとんがった塔が、天をつきさすようにそびえたっている。
「あの塔があやしい。あのなかにとじこめられているのかもしれない。」(新訂文庫版P128)S141.「ひときわ高い」となっている。
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「即死です。短剣のひとつきが致命傷です」
医者がいった。
「客間のマントルピース(壁へはめこみのだんろ)のかざりだなの上にあった短剣ですね。茶色の革帽子とならべてあった」
判事がいった。
「そうです」伯爵がこたえた。
「短剣は小銃などの武器といっしょに、装飾用に客間の壁にかけてあったのです。帽子は犯人のものにちがいありません」
「昨夜の兇行当時のようすを、できるだけくわしくお話ねがいたいのですが」(C32)E28-29 
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「即死です。短剣のひとつきが致命傷です。」
と、医者が説明した。
「昨夜の凶行当時のようすを、できるだけくわしくお話ねがいたいのですが。」(新訂文庫版P23-24)S25.「と、医者が説明した」は追い込みになっている。
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四月の太陽はあかるく笑っている。(C113)E105
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六月の太陽は明るく笑っている(新訂文庫版P86) →六月の太陽はあかるく笑っている。S96
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「ぼくは、城内を調べるために、ひとりで夜中に城壁をのりこえて、しのびこもうと思うんです」
「いや、あの高い城壁は、かんたんにはのりこえられません。それに、すごい猛犬が二頭いますからね。ぼくの母が一時あすこに住んでいたことがある。そのとき飼っていたやつが、まだそのまま、いまでもおっぱなしてあるんです」
「犬は毒殺すればいい」
「そいつはかわいそうだが、しかたがない。けれど犬をころしても、建物のなかへしのびこむのがむずかしい。古い城ですから、戸じまりは厳重だし、窓には鉄格子があり、扉はすごくがんじょうです。たとえ、しのびこめたとしても、どこにルパンがいるか、どの部屋にきみの父がとじこめられているか、さがしだすのが大変です。なにしろ、部屋数が八十もあるんですよ」(C170)E159
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「ぼくは、城内を調べるために、夜中に城壁をのりこえて、しのびこもうと思うんです。」
「いや、あの高い城壁はおりこえられません。秘密のくぐり戸からはいるほかに方法はありません。そこからしのびこんでもどこにルパンがいるか、どの部屋にきみのお父さんがとじこめられているか、さがしだすのがたいへんです。なにしろ、部屋数が八十もあるんですよ。」(新訂文庫版P132)→

「ぼくは、城内を調べるために、夜中に城壁をのりこえて、しのびこもうと思うんです。」
「いや、あの高い城壁はのりこえられません。秘密のくぐり戸からはいるほかに方法はありません。そこからしのびこんでもどこにルパンがいるか、どの部屋にきみの父がとじこめられているか、さがしだすのが大変です。なにしろ、部屋数が八十もあるんですよ。」S145
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「坊やさま……坊やさま……」
 乳母のビクトワールが、小さいときにルパンを呼んだとおなじように、そう呼びながらルパンの肩に両手をかけ、はらはらと泣きながらルパンをひきおこそうとした。(C322)E302
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「坊っちゃま……坊っちゃま……」
 ビクトワールが、小さいときにルパンを呼んだとおなじように、そう呼びながらルパンの肩に両手をかけて泣きながらルパンをひきおこそうとした。S.261
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「坊やさま」とは大時代の表現ですね。


初版と後期のテキスト両方をお持ちなのですね。情報ありがとうございます。
「怪盗ルパン全集」初版を元にしているという情報はただしいみたいですね。「怪盗ルパン全集」後期と新訂版とでは漢字を開いたり、逆に漢字にしたり細かい違いもあるのだとわかりました。

それから、すみません。新訂文庫版P132の
×あの高い城壁はおりこえられません。

○あの高い城壁はのりこえられません。
が正しいです。投稿した後で気づいて直してます。

「坊やさま」はいまとなっては時代がかった感じがしますね。

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