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2010/01/13

「セレンディップの三人の王子たち」

「セレンディップの三人の王子たち ペルシアのおとぎ話」竹内慶夫編訳、偕成社文庫、2006年

『「白い光」のイノベーション』という本を読んで、「セレンディピティ」という言葉を知った。X線の発明はセレンディピティによるものと言われているらしい。この言葉の元になった「セレンディップの三人の王子たち」というタイトルを覚えていたのだけれど、ヴォルテールがこの作品を読んだとかこの作品から影響を受けたという情報(情報源は忘れた)を目にしたので読んでみた。

底本は「チェットウッド版」と言われるもの。「セレンディピティ」という言葉を創ったウォルポールが読んだフランス語版の忠実な英訳版ということで選んだものらしい(ということはウォルポールはフランス語で読んだということ?)。ただし、この翻訳は抄訳で完訳ではない。

解説には次のようにかかれている。(以下、書名のない引用は本作品からの引用)

この手紙のなかに、「セレンディピティ」を明確に定義づける三つの重要な要素を見いだすことができます。それは、(一)偶然と(二)才気によって(三)さがしていないものを発見すること、です。ここに、セレンディピティということばの意味を考える原点があります。(P198)


さて、ヴォルテールの話。「ザディーグまたは運命」という作品の「第三章 犬と馬」より。

 「ある日、彼が小さな森の付近を散歩していると、数人の廷臣を従えた王妃の宦官が駆けつけてくるのが見えた。廷臣たちは激しい不安に駆られている様子で、紛失したすこぶる貴重なものを取り上せて探し回る者のように、ここかしこと駆けめぐっていた。
 「そこの若者よ」と、宦官の長が言った。「王妃さまの犬を見なかったか」
 ザディーグは控え目に答えた。
 「それは雌犬です、雄犬ではありません」
 「そのとおりだ」と、宦官の長は答えた。
 「たいそう小さなスパニエルです」と、ザディーグは付け加えた。「ごく最近、数匹の子犬を産み、左の前足を引きずって歩き、とても長い耳をしています」
 「では、その犬を見たのだな」と、宦官の長は息せき切って言った。
 「いいえ、一度見かけたことはありません」と、ザディーグは言った。「それに、王妃さまが雌犬を飼っておられるかどうかもまったく存じませんでした」(ヴォルテール「カンディード」岩波文庫、2005年、P98-99)

この推理によりザディーグは犬と馬を盗んだと思われて有罪判決を受けてしまう。判決をが下されるすぐに犬と馬が見つかったため無罪となる。

「(略)私は王妃さまの尊い雌犬さまも、王の中の王であらせられる王さまの神聖なお馬も決して見たことがございません。ありていに申し上げれば、事情はこうでございます。私が小さな森を散歩していましたところ、尊い宦官さまとご高名な狩猟長さまにお会いいたしました。砂には動物の足跡が見えましたが、それが小さな犬の足跡だと見当をつえるのはたやすいことでした。四つ足の足跡の少し隆起した砂にかすかな長い筋がついていることから、それが乳房の垂れた雌犬で、それゆえほんの数日前に子犬を産んだのだと分かりました。ほかに向きの違った跡があり、前足の横の砂の表面をきまってかすめているように見えました。ですから、その犬がとても長い耳をしていると知ったのです。それに、一本の足跡の砂の窪みがほかの三本に比べていつも浅いことに気づきましたので、あえて申し上げれば、尊い王妃さまの雌犬さまは少々びっこを引いておられるとわかりました。(略)」(同P100-101)


この逸話はエラリー・クイーン編集のミステリーのアンソロジーにも採録されているのだが、同様な話が「セレンディップの三人の王子たち」にも見ることができる。近代の探偵小説の探偵顔負けの観察力である。「第2章 消えたラクダ」より。

 故国セレンディップをでると、やがて三人の王子たちは、偉大にして強力なベーラム皇帝の国にはいった。
 その都にむかって旅をつづけているとき、彼らはたまたまラクダの群れをつれたキャラバンにであった。一頭のラクダを見うしなっていたキャラバンの隊長は、王子たちにたずねた。「みなさん、ひょっとしてラクダを見なかったかね?}
 王子たちは、とちゅうでそれらしき動物の足あとを見たのを思いだして、「見ましたよ」と、いっせいに答えた。
 いちばん上の王子が、自信をもって、
「それは片目ではなかったですか?」と問いただすと、
「歯がぬけていなかったですか?」とつぎの王子が、
「足が不自由だったでしょう?」といちばん末の王子がたずねた。
「こりゃたまげた、みんなそのとおりだ。」
と、隊長がうなずくと、
「では、あれはあなたのラクダでしょう。ずっとうしろのほうで見ましたよ。」と三人は答えた。(P17-18)

探しに出向いたのの見つからなかった隊長は、三人の証言をうたがう。三人がさらに特徴を述べると、三人こそがラクダを盗んだにちがいないと裁判に掛けられる。

 そして皇帝は、三人が見たこともないラクダの特徴を、なぜあれほどまで正確にいいあらわすことができたのかたずねた。
 皇帝を満足させようと、まずいちばん上の王子が口をひらいた。
「陛下、ラクダは片目が見えなかったはずです。なぜならば、われわれが歩いてきた道ぞいでは、よく生えた側の草はまったく食べられておらず、もういっぽうのよく生えていない側の草が食べられていたからです。もし片目が欠けていなかったら、草がよく生えているほうをえらんで、あまり生えていないほうをえらぶことはなかったと思います。」
 彼の話に、二番目の王子が口をはさんだ。
「ラクダの歯が一本欠けていることがわかりました。なぜならば、道ぞいの草がほとんど一足ごとに、ラクダの歯ほぼ一本分の大きさだけ食べのこされていたからです。」
「わたくしは」と、末の王子がいった。「そのラクダの足のうちの一本が不自由であると考えました。なぜかといいますと、地面にのこされた足あとをよく見ると、一本の足をひきずっていたことが見てとれたからです。」(P23-24)


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