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2009/08/21

自動車か馬車か(その1) - 奇岩城(4)

※以下の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※


私は「奇岩城」の邦訳を複数読んでいると、翻訳の違いに目が行くことがある。「奇岩城」の冒頭では、撃たれた犯人が、その後発見されないというのが一つの謎となっている。犯人を追う箇所では、下男のヴィクトールが脱出口となるくぐり戸を固め、レイモンドが倒れた犯人を探しに行く。そして、ベランダで見張りを頼まれた下男のアルベールは、居ても立っても居られず、後を追って現場に向かう。という流れとなっている。このアルベールが探しに行った先で会う人物が翻訳によって違うのだ。

三十歩ほど行くとレイモンドがいて、そこにヴィクトールもやって来た。
「どうだった?」とアルベールはたずねた。
「だめだ。捕まえられなかった」とヴィクトールが答えた。(ハヤカワ文庫P11)

そこから三十歩ほど先のところに、レイモンドをさがしているヴィクトールを見つけた。
「どうだい?」と彼はたずねた。
「つかまらないんだ」とヴィクトールが答えた。(岩波少年文庫P17)

二、三十歩さきで、ビクトールを探しているレーモンドの姿をみつけた。
「どうだったかね?」とアルベールはきいた。
「どうしてもつかまらんのだ」と、ビクトールが報告した。(偕成社文庫P15)

そこから三十歩離れたところに、彼はビクトールを探しているレイモンドの姿を見つけた。
「いかがでしたか?」彼が尋ねた。
「どうしても見つからないわ」レイモンドが言った。(新潮文庫P14)

レイモンドを探しているヴィクトールなのか、ヴィクトールを探しているレイモンドなのか。ヴィクトールを探している(ヴィクトールの姿がない)のにヴィクトールが答えたとするのはおかしな話だ。新潮文庫では、ヴィクトールの発言がレイモンドが言ったことになり、続く会話もレイモンドとなっているため、本来くぐり戸を見に行ったのはヴィクトールだけなのに、レイモンドも見に行ったことになっている。なぜか鍵も持って。会話部分はヴィクトールが正しいのは確かだろう。

問題なのは、アルベールが見つけた人は誰なのか、ということになる。私はアルベールが会ったのは、レイモンドとヴィクトール二人とも、と考えるほうが自然だと思った(いないほうが容疑者になってしまうから)。ハヤカワ文庫はそれを補足した訳になっているのだろう。

ということで、原文を調べてみた。

Trente pas plus loin, il trouva Raymonde qui cherchait Victor.

なるほど(ってよく分かってないけど)。偕成社文庫の翻訳が直訳に近いだろうか。そのまま訳すとすっきりしないので翻訳での解釈が分かれていたようだ。初出を調べると以下の通り(「ジュ・セ・トゥ」1908年11月号)。

Trente pas plus loin, il trouva Raymonde qui cherchait en compagnie de Victor.

レイモンドはヴィクトール“と一緒に”探してたのだった。納得。実は初出の文章の通りに訳されているのが新学社文庫版だ。

そこから三十歩ばかりはなれた所で、ビクトールをつれて曲者をさがしているレイモンドにあった。
「どうしました?」
「とてもだめだ」とビクトールが答えた。(新学社文庫P17-18)

新学社文庫の底本は不明だが、おそらく初期に出た単行本で、初出に近い内容だったのだろう。


次→自動車か馬車か(その2)

※以上の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※

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コメント

たいへん、ご無沙汰しております。
ペレンナです(^一^)
なかなか、おもしろい問題点に着眼されましたね。わたしも以前からこの部分の訳には、けっこう疑問を感じていました。
というのも去年、フランスで発売されている朗読CD( Livraphone社 )を購入したのですが、
この部分の会話に、邦訳にはないレイモンドが参加していたので「あれっ?!」と思ったことがありました(^^;)
その部分をむりやり訳してみると、次のようになります・・・

三十歩ほど先に、彼はヴィクトールを探しているレイモンドを見つけた。
「どうだった?」彼は言った。
「見つけることができなかった」ヴィクトールは言った。
「小門はどうなの?」(レイモンドの声)
「わしは行ってきました……これがその鍵です」(ヴィクトールの声)
「それでも……なんとかしないと……」(レイモンドの声)
「おお! それならご心配なく……あと十分もすれば、賊はわれらの手中ですよ」(アルベールの声)

日本で出版されている翻訳のほうでは、アルベールとヴィクトールの会話として訳されていますが、
フランスの読者にはその場にレイモンドもいるのだから、彼女も会話に参加したほうが自然に思えるみたいです・・・
もしよかったら Ko-Akira さんも、この朗読CDを購入して確認してみたらいかがでしょうか? d(^∇^)

お久しぶりです。情報ありがとうございます。翻訳にはレイモンドが登場するのですね。私としては、レイモンドの登場が多くなってしまうと、したたかさみたいな色が付いてしまうので、よくないかなと思います。(新潮文庫には驚きました(笑))
朗読は今は敷居が高いですけど、機会があれば聞いてみたいです。

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