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2009/06/28

ルパンシリーズの初期翻訳

すべてを確認したわけではないので、誤りがあるかもしれない。

明治末から大正初めにかけて翻訳されたルパンシリーズは以下のとおりである。すべて英訳からの重訳と思われる。「本文」欄は近代デジタルライブラリーで公開されている作品ページにリンクしている。

No邦題翻訳者ルパンの名前備考原作本文
A泥棒の泥棒森下流仏楼有田ありた龍造りゅうぞう「サンデー」1909年(明治42)
清風草堂主人『夜叉美人』サンデー社、1915年(大正4)
黒真珠(1-8)本文
B予告の大盗馬岳隠士
(堺利彦)
渡辺わたなべ金兵衛きんべえ
(単行本では
渡辺金弥)
「サンデー」1910-1911年(明治43-44)
万里洞、1911年(明治44)
(単行本では清風草堂主人名義)
戯曲アルセーヌ・ルパン(3)
ノベライズ版
C春日燈籠清風草堂主人
(安成貞雄)
有村ありむら龍雄たつお「やまと新聞」1912年(大正1)
『土曜日の夜』磯部甲陽堂、1913年(大正2)
(単行本では「土曜日の夜」に改題)
ユダヤのランプ(2-2)本文
D古城の秘密三津木春影仙間せんま龍賢りゅうけん武侠世界社、1912-1913年(大正1-2)813(5)前篇
E大宝窟王三津木春影隼白はやしろ鉄光てっこう中興館書店、1912-1913年(大正1-2)奇岩城(4)前篇
後篇
F金髪美人清風草堂主人
(安成貞雄)
有村ありむら龍雄たつお明治出版社、1913年(大正2)金髪婦人(2-1)本文
G金剛石三津木春影隼白はやしろ鉄光てっこう(岡村盛花堂・池村松陽堂?)、1913年(大正2)金髪婦人(2-1)本文
H皇后の頸飾清風草堂主人有村ありむら龍雄たつお『土曜日の夜』磯部甲陽堂、1913年(大正2)王妃の首飾り(1-5)本文
I秘密の墜道清風草堂主人龍羽りゅうは暗仙あんせん磯部甲陽堂、1915年(大正4)遅かりしエルロック・ショルメス(1-9)本文


A:泥棒の泥棒
副題がつき「巴里探偵奇譚・泥棒の泥棒」と紹介されている。ルパンシリーズ最初の翻訳(翻案)とされる。「黒真珠」の抄訳だが、筋自体は変わっていない。「有田龍造」がアルセーヌ・ルパンをもじったものであることに異論はないだろうが、翻訳者の「森下流仏楼」の読み方および正体については確定していないようだ。安成貞雄ではないかという説、森下雨村ではないかという説。りゅうふつろうと読む説、るぶろうと読む説がある。

B:予告の大盗
馬岳隠士は堺利彦のペンネーム。「馬ヶ岳」という山の名前が由来らしい。ルパンの名前は「渡辺金兵衛」という、似ても似つかない名前になってしまった。

C、F:春日燈籠、金髪美人
清風草堂主人というのは複数の人が使った共同ペンネームである。「金髪美人」では奥付に安成貞雄の名があり、また、弟安成二郎の証言からも、「春日燈籠」「金髪美人」の訳者清風草堂主人は安成貞雄で間違いないと思われる。

D、E、G:古城の秘密、大宝窟王、金剛石
三津木春影の「古城の秘密」や「大宝窟王」に関しては、読者の証言が残っている(読んだと回想されている)ようだ。

国会図書館所蔵の『金剛石』は表紙、奥付を欠いているため出版元が不明。『大宝窟王』の後篇で二十世紀探偵叢書の3巻(『大宝窟王』が1、2巻)として予告されており、三津木春影『空魔団』岡村盛花堂・池村松陽堂、1914年(大正3)の巻末広告に『金剛石』がある。後者を採用して岡村盛花堂・池村松陽堂と仮定した。伊藤秀雄『近代の探偵小説』所収「日本探偵小説年表」では岡村盛花堂となっている。

H、I:皇后の頸飾、秘密の墜道
従来言及されなかったもの。「皇后の頸飾」は「春日燈籠」「金髪美人」の訳者と同一と思われる。「金髪美人」単行本の序文や本文に「皇后の頸飾」への言及があることから、「金髪美人」より前に発表されていた可能性がある。「秘密の墜道トンネル」は未詳。「秘密の墜道」は「遅かりしエルロック・ショルメス(1-9)」の翻訳で、途中、「王妃の首飾り(1-5)」と「謎の旅行者(1-4)」のエピソードが挿入されている。


「金髪美人」は、作中では名前が変わっているが、序文では主人公の名前をそのまま音写している。序文の日付は大正元年11月で、上田敏が「アルセエヌ・リユパン」に言及したのは大正2年の末だから、ほかに発見されなければ最初の例となるだろう。

其中にあって、斬然として頭角を抜くもの三人あり、コナン・ドイルのシャーロツク・ホームズ、モーリス・ルブランのアルセーン・リユーパン、チェスタートンの長老ブラウン是れなり。

しかし、序文でアルセーヌ・ルパンを褒めているものの、本書自体の原著者名を明記していない(中表紙が確認できないので未確定)。原作者の名前を明らかにして翻訳しているのは、この中では「古城の秘密」が最初だろう。中表紙に「仏国 モリス・ルブラン氏原著」とあり、また、押川春浪の序文に曰く、

本書は原名を『八一三』と称し、仏国の大家・モリス・ルブランの最近の著作に係る物、三津木君の軽快にして行届いた訳筆は遺憾なく其結構雄大の面目を踊らせている。

固有名詞をそのまま音写した翻訳は、後藤末雄・鵜来島保訳「変装紳士」(朝野書店、1916年(大正5))での「リュパン」が最初らしい。(未見)


□参考文献・参考サイト
・伊藤秀雄『近代の探偵小説』三一書房、1994年
・伊藤秀雄『明治の探偵小説』晶文社、1986年
・長谷部史親『欧米推理小説翻訳史』双葉文庫、2007年
・田中英夫『山口孤剣小伝』花林書房、2006年
・『安成貞雄 その人と仕事』(『安成貞雄文芸評論集』編集委員会編著)不二出版、2004年
・伊多波英夫『安成貞雄を祖先とす ドキュメント・安成家の兄妹』無明舎出版、2005年
・安成二郎「探偵小説昔ばなし」(「宝石」1953年4月号)
・横田順彌「近代日本奇想小説史第63回 『ホシナ大探偵』と『呉田博士』ほか」(「SFマガジン」2007年10月号)
・森下一仁「〈新青年〉以前――若き日の森下雨村」
http://www2.ocn.ne.jp/~nukunuku/MyPage/USON0501.HTM
・新「アリス」訳解(リンク切れ)
 (「森下雨村と永代静雄」「《イーグル》のホームズ初期翻訳」というページを参考にした)
・近代デジタルライブラリー | 国立国会図書館
http://kindai.ndl.go.jp/

□関連記事
近代デジタルライブラリー:三津木春影作品
近代デジタルライブラリー:清風草堂主人作品
近代デジタルライブラリーで新資料提供開始(2010年7月):ルパン物語、馬岳隠士
近代デジタルライブラリーで新資料提供開始(2010年7月):三津木春影
近代デジタルライブラリーで新資料提供開始(2010年7月):清風草堂主人
上田敏のルブラン言及


□2009/07/04
一部加筆
□2009/07/12
清風草堂主人について修正
□2010/08/11
近代ライブラリーの新資料公開により修正
□2010/09/14 更新
□2012/06/04 最終更新

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コメント

安成二郎の「探偵小説昔ばなし」を入手されましたか。
これ乱歩の「幻影城」の第二版の序文にも引用されているのですが、確か字が混んでいるとは云え見開き程度のものと云う記憶です。
安成二郎の記事の日活文化会館の建物は又取り壊され今ではザ・ペニンシュラ東京とかになっています。有楽町の駅を降りて晴海通りを日比谷に行く途中です。
(有楽町駅から東京宝塚劇場へ行くには必ず渡らないと行けない通りですから)
乱歩は時代からいって多分森下雨村さんではないだろうと、書いています。

蛇足
今日、大和悠河、陽月華さんのさようなら公演を見に行ってきました。芝居の出来はまあまあ。ショーはいかにも宝塚と云う正統的なもの、今風のショーを期待する向きには物足らないかも。

>乱歩は時代からいって多分森下雨村さんではないだろうと、書いています。
そのようですね。遠縁にあたる森下一仁氏によると18歳なので、時代が早すぎるとも考えられます。

さよなら公演を見に行かれたんですね。羨ましいです。興味はあったのですが、いけませんでした。

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