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2009/06/21

創元推理文庫「怪盗紳士リュパン」入手のこと

期間限定カバーを購入。偕成社アルセーヌ=ルパン全集やハヤカワ文庫などとは収録作品が違っていて、2作品と引き替えに、他社では「ルパンの告白」に収録されている「彷徨する死霊」が収録されている。この方の翻訳はあまり面白味がないなあと感じることもあるのだけど、「アルセーヌ」が「アルセーヌ」なところが好き。これは本当に重要ポイントだ。


 ぼくはしばらくじっとしていた。悲しいと同時に、しんみりした気分だった。それから、ためいきをついた。ガニマールはおどろいた。
「とにかく、まっとうな人間でないというのは困ったものじゃ……」(P26)

この口調だとガニマールが言ったことになるんでしょうが、本来ルパンが言ったセリフと解釈するほうが妥当でしょう。(このセリフが後々の作品で効いてくる)

「おい! おまえは、権助や太郎兵衛がこんな芝居を打てると思っていたのかい? 少なくともアルセーヌ・リュパン級でなくちゃやれないことだぜ(略)」(P173)

フランスに権助や太郎兵衛がおりますかいな(笑) 昭和の日本でも珍しかったろう。原文にあるのは「デュラン」「デュポン」というフランスではありふれた姓です。

「ディエップまで。ついでに、夜半の汽車で着くアンドロル夫妻と、彼らの娘とを迎えてつれてきます」(P214)

原文チェックはしていないけれど、解釈の誤りなんでしょう。後で出てくる娘さんはアンドロル夫妻の子ではありません。

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アルセーヌ・ルパン」カテゴリの記事

コメント

権助、太郎兵衛が可笑しかったので、他訳を覗いて見ました。

(1)アッハッ・・・さあ貴様は、ドュラン君やドュポンなんて先生方が、こううまく事件を料理されると思ったのだな。え、おい、少なくともアルセーヌ・ルパンという男がなくちゃ駄目さ。(S.129)
(2)おい!おまえは、きんじょそこらの野郎がこんな芝居を打てると思っていたのか?少なくとも、アルセーヌ・ルパンぐらいじゃなくては、やれないことだぜ。(Ss.138-139)
(3)ああん!何だ、おまえは、デュランとかデュポンとかいうその辺にごろごろしている連中に、こんなみごとな芝居が打てるとでも思っていたのか?なあおい、アルセーヌ・ルパンのような人間でなければ、とてもこうはできはしないのさ。(S.201)
水谷準の訳と中村真一郎の訳と保篠龍緒の訳ですが、どれがどれでしょう?
これ以外に、堀口大學訳(新潮文庫・改版)、榊原晃三訳(岩波少年文庫)、竹西英夫訳(偕成社文庫=全集に同じ)、平岡敦訳(早川文庫)が手許にありますが省きます。

(1)は鱒書房版「怪紳士」1956.保篠訳です。(2)は早川書房の世界ミステリシリーズ(現在のハヤカワ・ミステリ)「強盗紳士ルパン」1960再版.中村訳です。(3)は角川文庫「快盗ルパン」1962・1970の23版.水谷訳です。

意外な事に、一番昔風の訳はここの部分は、石川湧訳と云う事になりますね。
他の部分。「ルパンの捕縛」の最後の台詞については又にします。

翻訳の情報ありがとうございます。保篠役は名前のまま訳されていたんですね。ハヤカワ文庫版や岩波少年文庫版は中村訳と同じ方式だったと思います。デュランやデュポンについては調べていたのですぐ反応できたのですが、権助には驚きました(笑) ジャン・デュポンという名前は、イギリスでいうジョン・スミス的な、そこいらにごろごろ転がっている名前という感じみたいなので、意味がずれるかなと思います。

・大辞泉(Yahoo!辞書)より
ごんすけ【権助】
《江戸時代、下男に多い名であったところから》下男。飯たき男。

たろべえ【太郎兵衛】
ぐずぐずしていて役に立たないこと。また、その人。たろうべえ。


お約束ですから、手許の他訳を総ざらえしてみました。(字数制限にひっかかるかな?。コメントは次にします)
(1)保篠龍緒訳。鱒書房版(1)1956.
しばしは、さすがの私もじっと黙思した。悲しい心と、あたたかい情けの思いに沈みながら、思わずホッとためいきをついた。ガニマール

は非常におどろいた。
「おどろいたね、馬鹿々々しい。貴様、あんまり正直な男という柄じゃないじゃないか・・・・・・」(S.29)
*
アッハッ・・・さあ、貴様はドュラン君やドュポンなんて先生方が、こううまく事件を料理されると思ったのだな。え、おい、少なくともアル

セーヌ・ルパンという男がなくちゃ駄目さ。(S.129)
*
ドイエップまで。ちょうど、ついでですから、私は夜中の汽車で到着されるアンドロル夫妻と、その友達とおっしゃるお嬢さんとを連れて

帰ることに致しましょう(S.188)**引用者註-お嬢さんは、ネリー嬢。

(2)中村真一郎訳。世界ミステリーシリーズ(404)1960再版.(初版記入なし。後の「ハヤカワ・ミステリ」)
しばらくのあいだ、私は悲しみと甘い感動にひたされて動かないでいた。それから私は溜息をついて言った。ガニマールはそれにとても驚

いた。
「やっぱり、かたぎの人間でないのはつらいことだな・・・」(S.23)
*
おい!おまえは、きんじょそこらの野郎がこんな芝居を打てると思っていたのか?少なくとも、アルセーヌ・ルパンぐらいじゃなくては、

やれないことだぜ。(SS.138-139)
*
ディエップまで。ついでに、夜半の汽車で着くダンドロール夫妻と、彼らの友人の娘とを迎えてつれてきましょう(S.170)

(3)水谷 準訳。角川文庫-2064- 1962.1970-23版.
ぼくはしばらくじっとしていた。悲しいと同時に、なんとなくしみじみとした気分だった。それから、ぼくがため息まじりにこんなことを

言うのを聞いて、ガニマールはひどく驚いたものだった。
「とにかく、堅気の人間じゃないのがうらめしい・・・・・・」(S.26)
*
ああん!何だ、おまえは、デュランとかデュポンとかいうその辺にごろごろしている連中に、こんなみごとな芝居が打てるとでも思ってい

たのか?なあおい、アルセーヌ・ルパンのような人間でなければ、とてもこうはできはしないのさ。(S.201)
*
ディエップまでね。ついでに、真夜中の汽車で着くダンドロル夫妻とその友人の娘さんを連れて帰ろうと思っているんです。(S.248)

(4) 堀口大學訳。新潮文庫-1368- 1960、2001改版、2006.
一瞬、僕は動きをとめた。わびしいと同時に甘やかな気持になって、その上で僕が溜息まじりに、
「我と我が身がうらめしい、堅気でないのがうらめしい・・・・・・」思わず洩らしたこの一言に、ガニマールがびっくりしていた。(S.31)
*
間抜けにもほどがあるぞ、ただの人間にこれほど見事な事件の仕組みが出来ると思うのかい?とんでもない、せめてアルセーヌ・ルパンぐ

らいは必要だろうに。(S.234)
*
そう、ジェップまで。僕の方でも十二時の汽車で着くアンドロル夫妻と、同伴の彼らの友人達の娘さんを出迎えて、ここへお連れするので

ついでがあるんだ(S.288)

(5) 平岡 敦訳。ハヤカワ文庫HM(312)-1 2005(初版)
そのままぼくは、しばらく立ちすくんでいた。悲しかった。けれでどもまた、何か甘酸っぱい気持ちで心は満たされていた。ガニマールの

驚きを尻目に、ぼくはため息をついてこう言った。
「まっとうに生きられないのも、つらいことさ・・・・・・」(SS.30-31)
*
おいおい、こんなに鮮やかな手並みは、誰もが見せられるものじゃないだろう?やはりアルセーヌ・ルパンほどの人物じゃなくちゃ。

(S.228)
*
そう、ディエップまで、わたしも人を迎えに行くついでがありますから。アンドロール夫妻と、その友人の娘さんが、今夜十二時の汽車で

着くんです。(S.297)

(6)榊原晃三訳。岩波少年文庫 3112 1983.1998第23刷.
ぼくはしばらく動かなかった。悲しいけれども、なんとなく甘いほろりとした気分にひたっていた。それからため息をつきながら、思わず

こう言ったものだ。
「とにかく、おれがまともな人間でないのがうらめしい・・・・・・」
これをきいて、ガニマールはとてもおどろいていた。(S.34)
*
おまえ、まさか、そのへんのこそどろ相手でもこんなおもしろい芝居がうてると思っているわけでもないだろう?こんどの芝居はな、せめ

てアルセーヌ・ルパンくらいの大物でなくちゃできないことだったんだぜ。(S.246)
*
そう、ディエップまで。ちょうどいい。ついでに真夜中に列車で到着するアンドロル夫妻と彼らの友人の娘さんを駅に迎えて、ここにおつ

れしよう。(S.314)

(7)竹西英夫訳。偕成社文庫 3139 1987.1995-13刷.
ぼくはしばらく動かなかった。悲しいと同時に、なんとも甘くほろりとした気分だった。それからため息まじりに、
「いずれにせよ、まっとうな人間でなかったことが残念だな・・・・・・」
と、思わずぼくはいった。ガニマールは、大いにおどろいていた。(S.33)
*
まさかおまえは、アルセーヌ=ルパン以外の人間でもこんな上等な芝居がうてると思っていたわけじゃないだろう?いいかね、こういうこと

は、少なくともアルセーヌ=ルパン級の人間でなければできないことなんだ。(S.255)
*
ディエップまで。ついでに、真夜中の列車で到着するアンドロル夫妻と彼らの友人の娘さんを迎えて、こちらにおつれしよう。(S.328)
---
**同訳。アルセーヌ=ルパン全集1 1981.2005-22刷(S.30)、(S.234)、(S.301)も同じ。
*
*
(8)南 洋一郎。 怪盗ルパン全集・2 1958.1974-42版。(1972末くらいに改訂か?)
該当文章なし。(S.41相当)
*
ばかだな、きさまは、これだけの大芝居をアルセーヌ=ルパン以外にだれができるものか。(S.194)
*
車で送ってあげよう。ちょうど、終列車で友人のダンドロール夫妻と、夫妻の友人の礼状がジェップ駅につくからね。それをむかえかたが

た、きみを送っていこう。(S.217)

(9)久米みのる。青い鳥文庫。
<A>怪盗ルパン怪紳士。「アルセーヌ=ルパンの逮捕」1994.1996第4刷.
手錠をはめられたルパンは、身もだえしながら、悲しそうにつぶやいた。
「ああ、ぼくはなぜ、怪盗になんかなってしまったのだろう。もし、生まれかわってくることができたら、かならずまともな人間になるの

に。」
ルパンの目になみだが光っているのを見たガニマルは、不安そうにつぶやいた。
「はて、怪盗ルパンは、もっとふてぶてしいやつだったはずだが、いやに感傷的なんだな。おい、おまえ、ほんもののルパンなんだろうな

。」(S.44)
*
<B>怪盗ルパン 二十一の宝石。「ハートの7(セブン)事件」1996.
該当文章なし。(S.179相当)
*
<C>怪盗ルパン 真犯人を追え!。1995.2004第16刷.
「なあに、えんりょすることはないんだ。じつは、アンドロル夫妻とわかい女性がひとり、午前零時ディエプ着の最終列車で、パリからや

ってくるんだ。むかえにいくやくさくそくをしたのでね。」(S.84)

(10)Arsene Lupin:Gentleman Burglar  ルビ訳18 講談社インターナショナル株式会社 2000. なお、Arseneの前のeには弱強勢符が付

く。
For a moment I stood rooted to the deck, sad and, at the same time, pervaded with s sweet and tender emotion. Then, to

Ganimard's great astonishment, I sighed:
"Pity, after all, that I'm a rogue!" (p.27)
*
Ah, so you thought that some Monsieur Durand or Dupont had managed this fine business? Come, come it must have needed an

Arsene Lupin at least. (p.175)なお、Arseneの前のeには弱強勢符が付く。
*
Yes, I may as well fetch Monsieur and Madame D'Androl and a girl friend of theirs, who are arriving by the midnight train.

(p.225)

別にテキストファイルに入れたものを貼り付けたので変なところで改行になっています。読みにくく申し訳ありません。
仏蘭西語が全然わかりませんが、偶々英訳本がオークションに出ていたので取り寄せてみました。仏蘭西語と英語の距離と邦語の距離では、英語に軍配があがるのはあきらかだからです。

こうしてみると、ガニマールの台詞と保篠訳はとっています。
児童向けの、久米みのるが勝手に追加し、南洋一郎は逆に省いています。
英訳を見ると、ルパンの独白ととるのがよいようです。

英訳もその儘、人名を掲げていますが、邦訳は意をとってというものが多いようです。だからと云って「権助」「太郎兵衛」じゃあねえ。「熊さん、八っつあん」と云う感じですよね(だからと云ってそんなにしてとは思いませんが)
保篠訳は「先生」と云う辞で少しはその感じを出そうとしています。

夫妻の娘ととったのは、石川訳だけです。英訳を見ても誤訳しそうもないのですがねえ。仏蘭西語はどうなってるか知る由もないですし、わからないですが。
汽車としているものが多数派ですが新しいものは列車としている傾向がありますね。でも問題の(中絶のおそれがある)平岡訳は汽車ですね。

でも、こうやって比べてみると、別の面白みがあります。日本語に上手く移せないときの処理なども興味深いです。

丁寧な調査をありがとうございます。

青い鳥文庫の追加描写はちょっと保篠訳の影響ありでしょうかね。
「夫妻の友人の娘」はやはりフランス語版でも誤りようがなさそうです。

逮捕劇のラストのせりふはやはりルパンが言ったとすべきでしょうね。ルパンを逮捕したガニマールが、「残念だ」と思うわけがないですし。

「まっとうな人間」(honnete homme または homme honnete)というのは、この後何度か出てきます。「奇岩城」については、以前触れました。
ルパンの涙(その4) - まっとうな人間
http://realize.txt-nifty.com/blog/2008/08/4_c468.html

このときのルパンは感傷に浸るものの、本気ではなかった。「奇岩城」になって心底そう思うことになった、と私は考えています。偕成社版が「まっとうな人間でなかった」と完了形になっているのは誤りでしょう。


せっかくなのでフランス語版を引用しておきます。フランス語は分からないので意味は取りません。(アクサンは省略)
+++++
Un instant, je restai immobile, triste a la fois et penetre d'un doux attendrissement, puis je soupirai, au grand etonnement de Ganimard:

- Dommage, tout de meme, de ne pas etre un honnete homme...
+++++
- Ah! ca, t'imaginais-tu qu'un monsieur Durant ou Dupont aurait pu monter toute cette belle affaire? Allons donc, il fallait au moins un Arsene
Lupin.
+++++
- Jusqu'a Dieppe. J'en profiterai pour ramener moi-meme monsieur et madame d'Androl et une jeune fille de leurs amis qui arrivent par le train de minuit.
+++++
フランス語原文は以下のサイトのデータを加工したものです。
http://ca.geocities.com/corpusmortuum/ (リンク切れ)

デュランとデュポンの綴りは、現行のフランス語版(先の引用及びオムニビュス社の3巻本の全集※)では、DurantとDupontですが、初出の「ジュ・セ・トゥ」では DurandとDupont でした。デュランの最後の子音字が違います(発音はしません)。ありふれた名前として代表的なのはDurandという形なので留意はしていたのですが、英訳を引用して下さらなければ、初出を確かめようとしなかったかも知れません。ありがとうございます。

※オムニビュス社の3巻本の全集について
http://realize.txt-nifty.com/blog/2006/01/200511__les_ave_2db9.html

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