ルパンの涙(その3) - 隠れ処と財宝
※以下の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※
誘拐と同様にエギーユ・クルーズについてもルパンの側の動機、思惑が重要だと思います。なんとなくルパンはボートルレが来るのを待っていたのではないかと思っていましたが、ルパンの涙ではっきりその可能性を考えるべきだと思いました。結論から言って、エギーユ・クルーズはボートルレが発見したのではなく、ルパンが探させたのだと思います。
実際、エギーユ・クルーズに関する情報はすべてルパンから与えられたものです。例外はマシバンですが、そこにもルパンの関与の可能性が見えます。ボートルレが発見した、あるいはルパンが発見させたエギーユ・クルーズとはどんな場所なのか。発見時にこう書かれています。
陸地から十六、七メートルかなたの海中にある、目には見えないひとつの王国!……ノートルダム大聖堂の塔よりも高く、都市の中の大広場よりもひろい花崗岩の基礎の上に築かれた未知の城砦……なんという力にみちた、なんという安全なとりでだろう!(岩波P306-307)
ここは避難所であるとともに、とほうもない隠し場所でもある。世紀とともにふくれ上がった歴代諸王のすべての財宝、フランスのすべての黄金、人民からしぼりとったすべてのもの、聖職者からうばったすべてのもの、ヨーロッパの戦場で集めたすべての戦利品、こうした一切のものが、この王家の洞窟の中に積み上げてあるのだ。(岩波P307)
要するに、エギーユ・クルーズは安全な避難所(隠れ処)であり、財宝の隠し場所であるということです。これはボートルレの考えといってよいと思います。期待通りすべての財宝があったかというと、それはボートルレの過剰な期待だったわけですが。
ところが、この隠れ処と財宝という2点は最初から書かれています。
「(略)ほら、君が解読しようとしてもできないあのエギーユ・クルーズの秘密は、ひょっとすると無尽蔵のすばらしい宝かもしれないし……あるいは、目には見えない、ふうがわりな、とほうもない隠れ家かも知れないし……あるいはその両方かもしれない(略)」(岩波P159)
「(略)そうしておけば、おれは、ご先祖のフランス歴代の国王たちがおれのために用意してくれた平和な隠れ家にひっこんで、国王たちが親切にもおれのためにたくわえてくださった財産をたのしむことができるのにな(略)」(岩波P272-273)
誰のセリフかというと、ルパンです。ルパンは最初からエギーユ・クルーズの秘密の答えを言っていました。初回の対面(岩波P159)では、ボートルレの思考能力が回復しきる前に吹き込んでいるし、次の対面(岩波P272-273)では相手を挑発するような言い方をしています。お前はたどり着けないのだと。こうまで言われては追いかけない訳には行きません。あきらめるという選択肢も提示していますが、同時に封じてもいます。これらは私にはボートルレを焚きつけていると思えるのです。
「(略)君がおれをほおっておくわけがないものな。君はへこたれるような人間じゃない(略)」(岩波P272)
ボートルレは、ルパンの言葉に導かれて行動しています。
そして、その人たちのところへたどりつくということは、同時にルパンのたてこもるとりでの奥ふかくに侵入することであり、ルパンが世界じゅうからぬすんできた財宝をたくわえている、おかすことのできない隠れ家にふみこむことにもなるのだ。(岩波P191)
このときのボートルレの目的は父の救出でした。にもかかわらず、意識化では父の捜索と、エギーユ・クルーズの捜索が交じり合っています。ルパンの術に嵌っているのです。
隠れ処と財宝(refugeとtresor)、それがボートルレが探していたものであり、ルパンが探させていたものです。所有権不明(実在性不明)→ルパンのもの→フランス王家のもの→ルパンのものとスケールが変わっているもののこの2点に変わりはありません。
※隠れ処の「が」は在り処の「か」同じく、「場所」を表すもので、「いえ」とは限りません。エギーユ・クルーズを住み処として使用したかは疑問ですので、語弊を防ぐため「家」は当てません。
隠れ処と財宝にたどり着くためには「エギーユ・クルーズの秘密」を解かなくてはなりません。その手がかりとしてボートルレは「エギーユ・クルーズにまつわる伝説」探していました。しかし、「令嬢」という言葉を聞いた瞬間、探すべきものは「エギーユ・クルーズ」そのものだったのだと気づいたのです。
前→ルパンの涙(その2) - 誘拐
次→ルパンの涙(その4) - まっとうな人間
※以上の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※
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