きつすぎる上着 - 奇岩城(4)
※以下の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※
彼はたいへん丁寧な口調で、おだやかな話し方をした。背は高く、ごく痩せてはいたが、まだまったく若い男で、短すぎるズボンに、きつい感じの上着を着ていた。娘のようにばら色の顔をしていて、広い額に短く刈った髪、金色をした不精ひげを生やしていた。目は利口そうに、生き生きしていた。彼は少しも取り乱した様子を見せず、べつに皮肉の跡も見せぬ感じのよい微笑を浮かべていた。(集英社文庫「奇巌城」P29)
この描写はイジドール・ボートルレというキャラクターを印象付けるものであるのに、結構解釈が割れる箇所ではないかと思う。短すぎるズボン、きつい上着はもちろん背広の丈が合わないことを言っている。サイズの合わない服を着ているなんて成人男子にはあるまじき醜態(フランス人ともあろうものが←偏見)。それなのににこにこしているというのは怪しいわけです。似合わないひげまで生やして。
考えられるのはまず貧乏か変人か。バーネットは後者だけど、ボートルレは違う。かといって貧乏でもなくてどちらかというとぼんぼん(金には困らない家の子)で、サイズが合わないのは単に成長期だからなんだと思う。貧乏ゆえにしては卑屈なところが無い。サイズが合わないというのも見るからにつんつるてんなのじゃなくて、よく見れば変だぞ程度なもので。
母親不在というのもあると思う。母親かもしくは身近に女性(叔母や使用人など)の眼があれば成長に合わせて服を仕立てるだろうし、貧乏だったらなおさら大きめに仕立てて裾上げなどをしてサイズには気をつけるのじゃないのかな。
「アマチュア探偵」と言う言葉にも表れている。無報酬で行っていて、経費は自分持ち。それによって名を挙げようという大それた望みを持っていない。そんなところもぼんぼんらしい。
ジェーヴル伯爵はヴァルメラ親子ともボートルレ親子とも食事を同席しているからそこそこの身分なのでは。サヴォワに住んでいるというのも、妻が無くなり子供も寄宿舎に入ってしまったから引退したとも考えられるし。ジェーヴル伯爵は他の身分の人物に対してあまり偏見を持っていそうな人物ではないので、そう豊かではないブルジョワとも考えられるけれど。
ルパンの書簡がジェーヴル親子を本気で非難していると捉えるのは早計で、金と宝石がたくさんあれば女性の気持ちは変わる、と言いいたいのだ。女性の気持ちを変えるのは劇的な出会いと誠実な付き合い。まあ古典的な筋立てだけど、だからこそ大衆は納得しやすい。そういうシナリオだと思う。
※以上の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※
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