« 怪盗紳士という称号(その3) - その登場 | トップページ | 怪盗紳士という称号(その5) - 付記 »

2008/04/17

怪盗紳士という称号(その4) - 対義語あるいは類義語

※以下の文章は前半期の作品を中心にルパンシリーズの内容に触れています。※


「謎の家(16)」には紳士航海士(gentleman navigateur, gentilhomme-navigateur)、紳士探偵(gentleman detective, gentleman-detective)という肩書きを持つ男が登場するが、この肩書きは一見すると自己パロディと言える。しかし航海士、探偵が趣味であることに嘘は少ない。紳士(ジェントルマン)ということは、金銭を得るために働く必要がないということであり、アマチュアであることを表す。アマチュア探偵(detective amateur)と名乗っている男も「エメラルドの指輪(A3)」で登場する。いずれも紳士強盗の隠れ蓑であり、プロの強盗であることが見え隠れしている。探偵行為は無報酬で(ないときもあるが)、本職としていないというのは確かなので面白みがない。紳士強盗は確かに趣味でもあるが、プロの強盗だから名乗る意味があるのだ。また、普通にアマチュア探偵と名乗るより、報酬“は”頂きませんという我流解釈を掲げるほうが面白い(「バーネット探偵社(15)」)。

アマチュア探偵と名乗ってこそいないが、無償で謎解きをするルパンの姿は早くから登場する。もっとも、謎を解くのは探偵の専売特許ではない。人助け、犯罪を暴くという意味での探偵である。「謎の旅行者(1-4)」では書類を奪われて俄か探偵になるし、紳士強盗としてのデビューである「ハートの7(1-6)」も、無償で謎を解く話となっている(後におこぼれを頂戴していることが判明するが、報酬や自己の利益が目的ではない)。職業探偵ではないから報酬は不要だし、依頼をしなくても、自分が危機的状況にあると気づいていなくても、ルパンのアンテナに引っかかれば助けてくれるのだ(「さまよう死霊(6-6)」)。「ルパン対ショルメス(2)」におけるルパンとショルメスの役割は、「金髪婦人(2-1)」では強盗と探偵だが、「ユダヤのランプ(2-2)」ではアマチュア探偵と職業探偵なのである。


探偵行為が本業ではないことはもとより、金銭を受け取らないことは何度か強調されている。

「それで、どことんまでやる気かい?」
「出来れば、その先までもな」
「なぜだ? どんな利益があるんだ?」
「アマチュアとしてだ。それにきさまが<いやだからだ」
(新潮文庫「棺桶島」P447-448/三十棺桶島(10))

アマチュアとして(En amateur)、つまり報酬はいらないということである。少しひねた捕らえ方をすると、趣味、道楽としてということになる。

en amateur ((軽蔑して))道楽で,気まぐれに,いい加減に(「小学館ロベール仏和大辞典」1988)

「それじゃ、お詫びはしません」とパトリスは笑いながら言った。「そのかわり、お礼を申します」
「なんの? あなたの命とコラリーさんを救ったことのですか? お礼には及びません。人を救うのは、わたしにとってスポーツですよ」
(創元推理文庫「金三角」P368/金三角(9))

スポーツ、とりわけアマチュアスポーツのことだろう。この時代、ジェントルマンとアマチュア、スポーツという言葉は不可分の関係にあり、アマチュアスポーツはジェントルマンにのみ許された行為だった。近代オリンピックも、設立時にはアマチュア=ジェントルマンしか参加できなかった。労働者や、プロスポーツ選手、スポーツにより金銭を受け取ったことのある人物は参加することが出来なかったのである。


ルパンにとっては盗みも人助けもスポーツなのかもしれない。何より自らの好奇心にしたがって行動する人間であり、そこに救うべき人がいれば助け、奪うべきものがあれば奪う。そのためのアンテナを広げておくのは、どこにチャンスが転がっているか分からないからだ。そして好機を見つけたらそれに賭ける。それは冒険家(aventurier)と言うことになる。「813(5)」のルパンはヨーロッパの地図を書き換えんとする策謀家であり、敵である男爵との付き合い方のように危険と隣り合わせの状況を愉しむ危険愛好家でもある。

日々の努力を惜しまず、その日その日に悪事を働く一方、遊び好きで情にもろいドン・キホーテのように、持ち前の性格と道楽気分により、善行も施していたのである。
(集英社文庫「アルセーヌ・ルパン」P7/太陽のたわむれ(6-1))

「もう一つある。第三の賭だ。二百万フランが懐に入るかもしれんのだ……そしてほんの手付け金にすぎないその二百万フランを手に入れたら、そこからがぼくの腕の見せどころさ。(略)」
(集英社文庫「アルセーヌ・ルパン」P23/太陽のたわむれ(6-1))

aventurier 1 (手段を選ばず富や権力を得ようとする)策士;山師,ペテン師. 2 冒険家,あえて危険を求める人.(「小学館ロベール仏和大辞典」1988)

そしてこれは紳士強盗を捨てたルパンが墓碑銘に選んだ肩書きなのである(「813(5)」「虎の牙(11)」)。


前→怪盗紳士という称号(その3) - その登場
次→怪盗紳士という称号(その5) - 付記

※以上の文章は前半期の作品を中心にルパンシリーズの内容に触れています。※

« 怪盗紳士という称号(その3) - その登場 | トップページ | 怪盗紳士という称号(その5) - 付記 »

アルセーヌ・ルパン」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/54863/40909036

この記事へのトラックバック一覧です: 怪盗紳士という称号(その4) - 対義語あるいは類義語:

« 怪盗紳士という称号(その3) - その登場 | トップページ | 怪盗紳士という称号(その5) - 付記 »

案内

サイト内検索
ココログ最強検索 by 暴想

アルセーヌ・ルパン

スキップ・ビート!

鉄人28号

つぶやき

無料ブログはココログ