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2007/07/01

ルパンシリーズ翻訳事情

翻訳事情といっても、ルパンシリーズは翻訳数も多く内容も多岐にわたるため、把握することは難しいです。そこで誰もが抱く疑問について追ってみたいと思います。要するに何で文庫でレーベルが揃わないの?という話です。1つのシリーズなのに出版社がバラバラなのはなんか不便ですよね。

これは外国小説の常として翻訳権がからみます。外国の小説を日本で出版するときは、作者の著作権の管理者に翻訳出版していいよという許可を貰って出版します。これが翻訳権です。ルパンシリーズは作品によって異なる出版社が翻訳権を持っていたから揃わなかったのです。現在はルブランの日本での著作権保護期間が満了していますので、著作権者に許可を貰わなくても自由に翻訳ができます。そのため、ハヤカワ文庫から新訳が出版されています。


以上で話は終わってしまうのですが、大抵シリーズまるごと一社が保有しているケースが多いのに、何故ルパンシリーズはバラバラなのかまだ気になると言う方は続きをお読みください。

○著作権と翻訳権
日本の著作権法では、著作権の保護期間は50年と定められています。フランスの作品の場合、保護期間は約60年です。戦時加算といって、第2次世界大戦中は著作権が保護されていなかったとみなしてその分保護期間を延ばしているからです(フランスでは著作権保護期間は70年です。よって、ルブランの著作権は2011年まで保護されます)。保護期間が終わっても消滅しないと考えられている権利(著作者人格権)もあります。

著作権が切れるということは、それに付随する翻訳権も切れ、契約など面倒な手続きなしで自由に翻訳が出来るということです。そのため「戯曲アルセーヌ・ルパン」を発売した論創社をはじめ、いくつかの出版社から著作権の切れた作品の発見/再発見による翻訳が行われています。2005年にサン=テグジュペリの「星の王子さま」の翻訳が複数出版社からいっせいに出たことがありましたが、これも従来の出版社が独占していた翻訳権が切れたためです。


○ルパンシリーズと翻訳権
ルパンジリーズ初の翻訳は明治42年(1909)の「巴里探偵奇譚 泥棒の泥棒」だったと言われています。森下流仏楼による「黒真珠(1-8)」の翻案です。初期の翻訳は、登場人物や舞台を日本風に改めた翻案で、その後登場人物名など原作のままの翻訳が登場します。そして、大正7年(1918)に保篠龍緒氏が「怪紳士」を出版します。保篠龍緒氏は、日本ではまだ翻訳権の概念が浸透していない中で翻訳権の取得に乗り出し、後に取得します。そして、ほぼ全ての作品を翻訳し戦前から大戦直後までの翻訳を独占します。

(保篠龍緒氏が所有していた翻訳権については、信頼できる情報に当たっていませんが、昭和4年(1929)の平凡社版ルパン全集が出る頃にはすべての作品についての翻訳権を取得したらしいのですが、1935年に失効したようです。戦後出版されなくなっていくのはこのためです)

戦後昭和30年代になり、あらためて著作権を獲得しようとしたのが新潮社、東京創元社、ポプラ社の三者でした。このとき、新潮社が文庫版を、東京創元社が全集版を、ポプラ社が児童書を翻訳する権利を得、三社のシリーズが出揃うことになりました。しかし、新潮社の文庫版は10冊出した時点で終わってしまいます。そこで昭和40年代に東京創元社が新潮社から翻訳を出していない作品の翻訳権を譲り受けて文庫版を出版しました。ここで今の状況が揃ったわけです。

昭和50年代には偕成社アルセーヌ=ルパン全集が出版されました。保篠版や東京創元版の全集では未訳であった作品もあるため、シリーズが一つのレーベルで揃った初めての例となります。この出版に当たっては、推測ですが、東京創元社が持っていた全集版の翻訳権を譲り受けたのでは、と思います。東京創元社の全集は増刷していなかったのでしょう。


○翻訳権の例外
翻訳権にはかつては十年留保といって、出版されてから10年翻訳が出なければ(翻訳権が取得されなければ)、自由に翻訳出版できるという例外規定がありました。ルパンシリーズも初期の作品がこれに該当します。偕成社アルセーヌ=ルパン全集や、創元推理文庫の著作権表示を確認してみると、だいたい次の作品が対象だったようです。

「怪盗紳士ルパン(1)」「ルパン対ショルメス(2)」「ルパンの冒険(3)」「奇岩城(4)」「ルパンの告白(6)」「水晶の栓(7)」「オルヌカン城の謎(8)」

ということでこれらの作品については翻訳権に拠らず繰り返し翻訳されています。新潮文庫と創元推理文庫両方から出版されている作品もありますね。ここで、ルパンシリーズに詳しい方には引っかかることがあると思います。「813(5)」は? 順番で行くと「奇岩城(4)」の次に出版されているのではないかと。しかし偕成社アルセーヌ=ルパン全集にある著作権表示を確認してみると「813」は1923年の管理となっている。分冊されたときに管理が変わったのか分かりませんが、年代が後になってしまったため例外の範囲に入らなかったようです。残念。


□参考文献・参考サイト
長谷部史親「欧米推理小説翻訳史」双葉文庫、2007年
戸川安宣「少年の夢、夜の夢8 ひげの剃りあとも青々しいルパン」(雑誌「本の雑誌」2004年8月号掲載)
住田忠久「解説」(「戯曲アルセーヌ・ルパン」小高美保訳、論創社、2006年所収)
怪盗ルパンの館(「~怪盗ルパンを愛した日本人~アルセーヌ・ルパン翻訳の歴史」のページ)
翻訳ミステリ総目録ル03


□2015/09/24
戸川氏が「本の雑誌」で書かれたことと同様のことを書かれています。
翻訳家交遊録 2 (執筆者・戸川安宣) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20141114/1415922723

ポプラ社の怪盗ルパン全集については、以下が参考になる。
秋山憲司「回想の乱歩・洋一郎・峯太郎」(鮎川哲也監修、芦辺拓編『少年探偵王』光文社文庫、2002年)

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