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2007/05/12

「奇岩城」探求(附録4)

※以下の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※


「奇岩城」探求(附録1)からの続き。少々意地の悪い書き方をしてきたけれど、ここから先ははっきりいって愚痴です。講談社版が気に入ったという方には読むのを勧めません。


講談社版は(附録3)で引用した部分で、他におかしい点がいくつもある。ルパンの部下の目を警戒しているはずなのに、不用意に近づいてさらに一巡りするくらいの余裕ぶりだったり、入り口はないと言い切っていたり(入り口はある)。即侵入しようとするのも理解できない。まず確認しなくてはならないのは「父が閉じ込められているかどうか」ということなのに、ない。ここに至るまで、否ここに至っても、父とこの地方(城館)を結びつけるいかなる情報も出ていない。父らしき男性の目撃情報もなく、城に導く怪しい男の存在もなく、手紙を拾った男に会いに行こうともしない。ポプラ社版は主題こそ変えているが、例えば「誘拐の翌朝自動車から馬車に移し変えられた」という点でボートルレが得た目撃情報と父の手紙の内容が一致する事は利用している。それがなければ、シャトールー近辺をうろつく動機がなくなるからだ。

この城館の借主についても根拠もなく前置きもなく借主=ルパンになっている。根拠は原作にはある。ボートルレが目撃したルパンの変装と、借主の特徴が一致することだ。そのためにルパンはわざわざああいう変装をして会ったと考えられる。原作では誰だ?と思った「わたし」だからこそ詳細な特徴を提供してくれるのであって、ボートルレは相手が誰だかわかっているし、どんな格好をしていようが会見の時点では問題にならない。これはポプラ社版でも異なっているが、少なくとも借主=ルパンという前置きはある。


誘拐の話に戻ると、通信手段として電話が活躍しているが、携帯電話があったら成り立たない推理小説が数多あるのと同様、原作は電話網が発達していたら成り立たない。それでも電話を使っているのは故意だろうから、上手く生かせていればいいのだけど、非常にまずい描写がある。

ルパンとの会見後にボートルレがシェルブールに電話をかけたとき、父は外出中という返事だった(今は外出しているが朝10時には在宅で無事だったと言いたいんだろうけど要領を得ない)。なのに、ボートルレは記事を直さなかった。父誘拐済みという電報を見ているのになぜこの電話内容でよしと思えたのか理解できない。どういう返事を期待して電話を掛けたのかこの返事を聞いて何を考えたのか。外出の様子を聞きもしないし、後で帰宅を確認しもしない。しかも電話の段階ではまだ誘拐されていないことが後で分かる。なぜそういう設定にしたかも分からないが、当のボートルレは電話の段階でしかるべき対応をしていたら誘拐は防げたことに気づかないそぶりで、あきれてしまうというより当惑してしまう。それどころか、後でこの誘拐を「父の過ち」扱いしている(…父を巻き込んだことを少しは申し訳なく思え)。

そもそも原作では会見は夜10時。この時間のボートルレはシェルブールとの通信手段は絶たれているだろう(今の日本だって電報は10時締め切りだから夜中はやってないだろうし、夜間は宿舎が閉まっている)。そのためにルパンは夜に呼び出した。もちろん記事の活字を組む直前だからということもある。講談社版はなぜか昼夜逆転しているけど、朝10時に脅しをかけたって半日あれば心変わりもするし十分に対策する時間があるのに意味がない。加えて、前日の朝に新聞記事の活字が組みあがってるなんて出鱈目を書く意味も、一介の高校生に記事を差し止めるさせようとする無茶も、誘拐が嘘なのにその場で電話を掛けさせない思惑も理解できない。ただ原作から変えたいだけとしか思えない。


講談社版は万事この調子なのである。X原作にAとあればBに、CとあればnotCに、DとあればD'にというやり方をしているのだ。逐一根気よく。だから、ほぼすべて(むしろ悉くすべて)原作に拠らない設定になっているにも関わらず原作抜きに存在しえない。そしてそれは原作の設定や伏線を潰していることに他ならない。改作者は原作を理解していない。だったら原作どおりにするのが鉄則、さもなくば、一から作ってしまうかだ。だけどそうはしなかった。でもA-C-Dの関係が見えないのだからB-notC-D'の関係が見出せるわけがない。

昼2時誘拐になっているのは、原作でルパンがいう夜中2時に誘拐するぞという脅しから来ているのだろう。よもや原作の「2時」が嘘だと分かってないとは思わないけど、後誘拐でもいけると思った理由が分からない。原作では互いに切り札を持って、相手の動向を窺いながら話をしているのであって、どちらも本心を見せてはいない。そういう駆け引きが面白いのに。だからちゃんと読めば小手調べの嘘だと分かる。証拠だってある。(附録2)に書いたとおり、シェルブールとシャトールー間は約500km。時速55km×9時間はありえても時速100km×5時間はないだろう(「水晶の栓」では部下に時速50kmで「荷物」を運ばせている)。翌朝7時頃に目撃情報があるから、夜中2時誘拐は嘘で、10時の電報が正しいことが証明できる。「誘拐の翌朝自動車から馬車に移し変えられた」という父の手紙が出てくることからもはずせない部分だ。講談社版は昼夜逆転しているからそのまま使えないとしても、車に乗ったのが長時間だの太陽の光だのわざわざ書き改めたにしてはお粗末すぎる(そこがイタリアであっても通る)。

調べたのでおまけ。
Map24 - Route planner and maps for UK, Europe and USA(英語)
http://www.uk.map24.com/
出発地:50100 CHERBOURG-OCTEVILLE (CHERBOURG) France
目的地:36000 CHATEAUROUX France
距離:306.24 ml(1マイル=1.6キロメートルとすると約490km)
所要時間:07:58 h


前→「奇岩城」探求(附録3) - 塀の高さ
次→「奇岩城」探求(附録5)

※以上の文章は「奇岩城(4)」の内容に触れています。※

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