宝塚「『A/L(アール)』-怪盗ルパンの青春-」感想
楽しかった。劇場に見に行ってよかった。私にはこそばゆいというかくすぐったい作品だった。そこが妙にツボに嵌ってしまったところでもあってなんとも気恥ずかしい。原作とは関係が薄いし、公式サイトのあらすじとも違っているので、期待していくとたぶん肩透かしです。それとアルセーヌ・ルパン(Arsene Lupin)はA/L(アール)と呼ばれているので戸惑わないように。この際原作は脇においてください。コメディだし。
特別製の緞帳がかわいかった。ファンシー系の絵で色はまさにキキララ。お姫様のほうはフランス語でアニエス、怪盗姿のほうはラウル?アルセーヌ・ルパン?と書かれている。絵に吹き出しがついてて、時間に合わせて案内してくれる。フランス語だったので読めなかったけれど、もうすぐ始まるよとか、フィナーレとか、またねとか。ところがこの緞帳、誤字があったらしく、Arsène LupinがArséne Lupinになってたみたい。Agnès(アニエス)はたぶん大丈夫。
影の副題は「お転婆天使の初恋」なんじゃなかろうか。それぐらいインパクト大有りの「お転婆天使」という言葉(いつの時代だ)。最初はずっこけそうになりながらだんだん馴染んでくる恐ろしや。名前負けしていないアニエスもすごいけれど。でも私が一番気に入ったのはラウル。ヴィクトワールがうらやましい。だって「ただいま」って言ってくれるのよ(このシーンで上着を脱いで掛けるのだけど、2回目観劇のとき上着を落としてたのはご愛嬌)。格好いいというよりいとおしい。よくまっすぐ育ったものだ。
ラウルがA/Lになって予告状を出すものの、やっぱ誘拐はよくないと帰りかけながら戻ってくる。でも戻ってきて言うせりふが「お嬢さん、お迎えにあがりました」←十分なりきってるやん! しかしそこには恐るべき(笑)罠が仕掛けれててさらうはずのアニエスに引っ張られて逃げる羽目に。そのままアニエスに振り回されてなぜか白昼デートに。ばれないようにしないと、とかいうんだけど、全然隠れてない。学友たちよなぜ気づかん。2人ともピンク系の服装で可愛かった。ラウルがA/Lを気取ってるのかカッコつけて座るのもほほえましい。私は君が足長いのは分かったから!な気分で見ていた。しかしこのラウル、最初こそアニエスお嬢様のツボは心得ているよね、ぐらいで納得できなくないけれども、どんどんエスカレートしててタラシの地が見えてくるようなキザセリフ…。
ラストはマリアンヌへの伝言を受けたところと、ローアンとよい旅をというような何気ない挨拶を交わしたところがよかった。ドクトル・ゴッズは狂言回しのきわみで、謎の道具だとか仮面だとかいろいろ用意してくれる。斬鉄剣を手にぴょんぴょんはねるドクトルに釣られて飛ぶラウルが可愛い。変身にマッドな博士って付き物だよね。と言うところなのだけれど、このドクトル、妻のマリアンヌが3年前になくなったことが信じられずに捜し求めるというのがうざったいくらいに出てくる。それがここできれいに落ちた。託りましたと答えたラウルの優しさがじんわりくる。ローアンについては誰としゃべっているかラウルは知らないというのが切ない。
ところでこのお芝居はミュージカルなわけです。だから(セリフに節がついているのが不思議だった…のは置いといて)歌がたくさん出てくる。でも全然旋律を覚えていなくて、唯一メロディを覚えているのが、君がそこにいるのに、手を伸ばせば触れられたのに、という曲で、まさにラウルのテーマソング。だから私は今回のラウルには切ない印象が残ってしまっている。A/Lのテーマはあまり覚えてない。オープニングはあっという間に始まったというか、凄かったというイメージは残ってるんだけど…。ヒーローの名前で〆るのは特撮っぽい(「そうさこの俺アルセーヌ・ルパン」…書くのすら恥ずかしい)。しかし自分で歌っちゃうヒーローというのはなかなかいない。
全体的なイメージとしては少女漫画だなあと思う。キザっちいセリフが出てきて、ありえない設定がバンバン出てきて、コメディ色もあってというべったべたな昔の少女漫画。ミーハー気分で楽しんだもの勝ちな作品です。おでこにキスって…私はぶっちゃけ「ときめきトゥナイト」を思い出した(でもイメージとしてはごく初期かもっと古い少女漫画)。セットの月も漫画チック。
だから深く考えちゃダメです。作品としての粗はかなり多いので気になる人は気になると思う。
・婿殿ってスーピーズ伯爵は中村主水かい
・ローアン枢機卿に子どもって…破戒僧め。しかも本妻とその子どもがいるっぽいんだけど?
・公爵が伯爵家に婿入りって?
・乳母なのにマドモワゼル?
・貴族の令嬢がバレリーナ?
・宝石の偽造は犯罪って、高価な宝石はイミテーション作らない?
・未公開株の取引だの証券の偽造だのいつの時代だいつの
と、こういう感じなので。でもその荒唐無稽さが反って興味深い謎を生んでいて、この話は1幕でヴィクトワールが書いている内容であることが強調される。じゃあ、1幕最初のヴィクトワールといるA/Lは本物?ラウルA/Lが誕生する前にA/Lがいたなら最初のA/Lはどこで生まれたの?というあたりパラドックスが起こってて面白い。たぶん脚本はそれほど考えて書かれてないだろうとは思う。ただ、やりたいことがハッキリしてるので楽しくみることができた。
以下、他のキャラクターその他について思いつくまま。
ルイ・アントワーヌ・レオン
アニエスの婚約者で、長い上着が似合ってて格好よかった。ライバルは金も力も背もあってかっこよくなきゃね。だってアニエスの気持ちは論外でA/Lにあるわけだから。もう少し、キャラクターの掘り下げというか知力があってもよかった。部下の女の名前はミレディ。やっぱ悪女の名前と言えばこれだ。
シャーロック・ホームズ
ジョー・ワトソンと組んで完全なコメディ・リリーフ。幕開け前から登場して観客を楽しませてくれる。今回はわざとA/Lを泳がせてくれているので、本来の能力は未知。ワートソンくんという言い方がツボにはまる。
ミロ・ガニマール刑事(原作はジュスタン・ガニマール)
本気で無能?かもしれないコメディ担当。最初は伯爵家だからとりあえず服装は整えて訪問。でも12年間経つとやさぐれちゃって、伯爵家でも気にしない。ネクタイは緩める、袖はまくりあげる。皺が縒るぞーと思う。
ドニス・カンデラ
とっても個性的。みんな怪盗紳士にうっとりな世界で独り怪盗紳士なんかいないと主張してる。なのに好きな子の気を引くためにあることをするのも可愛い。
原作について。
この話はルブランの原作「王妃の首飾り(1-5)」のエピソードを使ったオリジナル。原作といっても、下敷きにしているのは南洋一郎の翻案である「ぼくの少年時代」でしょう。だって“スーピーズ”伯爵だから。本来の原作ではドルー=ズービーズ(ドルー=ズビーズ)伯爵といって、ドルーとスービーズという二つの家の名前がくっついている。スービーズはSoubiseでpじゃないんです。夜会シーンから始まるところや、ヴィクトワールや作者(「A/L」では二者を合体させている)が出てくるところ、亡母にとってこれがよかったんだというところも南版ですね。個人的には「ぼくの少年時代」も青い鳥文庫の「二十一の宝石」も野暮ったくて原作に如くは無しだと思う。
余談1。
これって宮崎監督の「カリオストロの城」じゃんというシーンもあった。まああれも王道だから。私は良さがあまり分からないのでよく知らない。スーピーズ家に娘がいて成長して再開する、王妃の首飾りを執拗に狙う人物がいる、あたりはフランス映画の「ルパン」と被るんだけど、名前はアニエスでよかったわ。
余談2。
Webに掲載されたポスターの仮面を見たときから思っていたのだけど、劇中でオペラ・ガルニエと言う単語が…。仮面、ラウル、オペラ・ガルニエこのキーワード“だけ”ならまるで「オペラ座の怪人」。「オペラ座の怪人」のラウルはRaul。こっちのラウルはRaoul。フランス人なら普通はRaoulだから、Raulはイタリア系かも。劇中の発音はラウールだったけど、ラウールとアール、ちょっと紛らわしい。ちなみにA/Lでアールと読ませているが、フランス語のアルファベットではRはアールではない。A(アー)、L(エル)、R(エール)と読む。
とりとめなく書いてしまったけれどこの辺で。
あらすじはまとめきれなかったので、キャストと各場面のタイトルのみ別ページに載せておきます。
→宝塚「A/L」キャスト
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□2007/04/18追記
中日の千秋楽では「あの人だろ?」というセリフがあったらしい。見れてたら感無量だっただろうなあ。
□2007/04/25追記
あらすじを追加しました。
→宝塚「A/L」キャストとあらすじ
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