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2006/06/06

「奇巌城」冒頭比較(続き)

「奇巌城」冒頭比較の続き。長くなったので、分けました。

◆◇抄訳・リライト◇◆

■「大宝窟王」三津木春影訳…1912年

 黎子は不図眼が醒めた。耳をそばだてると、何処からともなく怪しの物音が二度ばかり聞えて来る。ハテ、寂然しん寐鎮ねしずまった真夜中に何の音であろう。……だが、漠然ぼんやりとして居て何の音とも判断がつかぬ。この大きな田舎やしきの壁の中から響くのか。それとも邸園の真暗な繁みの奥から聞こえるのか…………。
 で、彼女はそっ寐台ねだいを放れて窓を明けて見た。

■「名作選・怪盗ルパン2 奇巌城」保篠龍緒訳(講談社)…初出不明
はてな 翻訳小説について質問です。
http://www.hatena.ne.jp/1096729048#a23

 カタリ、コトリ……
 どこからともなく聞こえてくる、あやしいもの音に、ふと目をさましたレイモンドは、そっと、ベッドから起き上がると、寝室の窓の戸を、音のしないようにあけた。ま夜中の青白い月の光が、ひろい庭の芝生の上にながれていた。
 と、その光の中を、ひとりの男が、大きな包みをかかえて、タタタタ……と走りさっていく。おどろいて見おくるまもなく、つづいてまたひとり。早い、じつに早い。ふたりのあやしい男のすがたは、たちまち土べいのなかにきえてしまった。

■「奇巌城」菊池寛訳…1928年
青空文庫:図書カード:奇巌城
http://www.aozora.gr.jp/cards/001121/card46187.html

 レイモンドはふと聞き耳をたてた。再び聞ゆる怪しい物音は、寝静った真夜中の深い闇の静けさを破ってどこからともなく聞えてきた。しかしその物音は近いのか遠いのか分らないほどかすかであって、この広い屋敷の壁の中から響くのか、または真暗な庭の木立の奥から聞えてくるのか、それさえも分らない。
 彼女はそっと寝床から起き上って、半分開いてあった窓の戸を押し開いた。

■「海底水晶宮」横溝正史作(翻案)…1932年
引用元:「横溝正史探偵小説選 I」論創社、2008年

 蘭子は寝ぐるしい夢からふと眼がさめた。
 何かしら、恐ろしい、不気味なものが、ベッドのうえからのしかかって、さんざん自分を打ちちょうちゃくしているような夢だった。
 「ああ、いやな夢だった」そう呟きながら、くるりと寝がえりをして、眼をつむろうとしたときだった。ふいにどこからか、一声たかく、
 「ううん!」という呻声がきこえた。
 蘭子は、ハッとしてベッドのうえに起きなおる。夢かしら――いや、夢ではない。
 たしかにこの声できいたのだ。
 不気味な、断末魔のごときうめきごえ。――彼女はそっとおきあがると、寝着のうえにありあわせた絹の外套をひっかけて、窓のそばへよった。

■「奇巌城」南洋一郎文…初出不明(1958年5月初訳。改訂あり)
引用元:ポプラ社・文庫版怪盗ルパン、2005年

「おやっ。」
 白バラのように美しい少女レイモンドは、三階の寝室で目をさますと、じいっと耳をすました。
「あ、また、きこえるわ。」
 しんしんとさびしい真夜中に、どこからか、あやしい物音が、かすかにきこえてくるのだった。
 古い建物のなかかしら……それとも……ひろい庭の木立ちのおくからかしら……毛布をそっとはねのけて、ベッドからすべりおりたレイモンドは、すらりとした白い素足に上靴をつっかけると、こっそりと窓ぎわにしのびよって、しずかに……しずかに、戸をおしひらいた。

■「奇岩城」久米元一(偕成社・怪盗ルパン選集)…1969年
レイモンドの年齢は原作では不明、念のため。

 「あら、あの音は、なにかしら?」
 二十一才のレイモンド嬢は、はっと目をさました。
 ガタッ。
 あやしいもの音は、ふたたびおこった。どうやら、二階の応接間のあたりらしい。
 レイモンド嬢は、すばやくとびおきて、まどのカーテンをひらいた。

■「怪盗ルパン 奇岩城」久米みのる訳(講談社青い鳥文庫)…1997年初出

「あら、あの音は?」
 レイモンドはベッドに寝たまま全身を耳にした。
 ズシン、ズシン、その音は、たしかに二回くりかえされたのだ。深夜の静けさを感じさせる、さまざまなかすかな音とは、はっきりとちがっていた。あまりにも小さな音だったので、いまレイモンドが泊まっている、ド=ジェーブル伯爵の古い城館の分厚い壁の中からか、外の広い庭園のまっくらな片すみからきこえてくるのか、けんとうもつかなかった。
 レイモンドは、そっと起き上がると、いまいる三階の部屋の窓をぐいとおし開いた。

■「奇巌城」逢坂剛訳(講談社文庫)…1999年8月
はてな 翻訳小説について質問です。
http://www.hatena.ne.jp/1096729048#a23

 スザンヌは、はっと目を覚ました。
 物音が聞こえる。二度、三度。ただの物音ではない。何かを動かし、運んでいくような重い物音だった。しかも、屋敷の中だ。
 スザンヌはベッドの上に起きあがり、じっと耳をすました。胸がどきどきしてくる。
 いったい、だれだろう。父のジェーブル伯爵が、家具でも動かしているのだろうか。でも、こんな夜中に模様替えでもあるまい。
 だとしたら、泥棒か。
 そう考えたとたんに、スザンヌはぞっと体をすくませた。……


◆◇英訳◇◆
■「The Hollow Needle; Further adventures of Arsene Lupin」Alexander Teixeira de Mattos訳…初出不明
英訳です。無料で以下のサイトで読めます。「空洞の針・アルセーヌルパンのさらなる冒険」という題がついてますね。引用するにあたって改行を取りました。(ちなみにこの英訳ではショルメスが“Holmlock Shears”ホームロック・シアーズになっています。)
The Hollow Needle; Further adventures of Arsene Lupin by Maurice Leblanc - Project Gutenberg
http://www.gutenberg.org/etext/4017

Raymonde listened. The noise was repeated twice over, clearly enough to be distinguished from the medley of vague sounds that formed the great silence of the night and yet too faintly to enable her to tell whether it was near or far, within the walls of the big countryhouse, or outside, among the murky recesses of the park.

She rose softly. Her window was half open: she flung it back wide.(略)


◆◇原文(フランス語)◇◆
■「L'aiguille creuse」Maurice Leblanc…1909年

Raymonde prêta l'oreille. De nouveau et par deux fois le bruit se fit entendre, assez net pour qu'on pût le détacher de tous les bruits confus qui formaient le grand silence nocturne, mais si faible qu'elle n'aurait su dire s'il était proche ou lointain, s'il se produisait entre les murs du vaste château, ou dehors, parmi les retraites ténébreuses du parc.

Doucement elle se leva.(略)



□更新履歴
2005/09/12保篠氏の翻訳版を発見したので差し替え、原文追加。
2006/06/06平岡敦、菊池寛、三津木春影訳追加。
2006/11/04久米みのる訳追加。
2006/12/04久米元一訳追加。
2008/09/07横溝正史追加。

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