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2005/10/02

映画「ルパン」 アルセーヌ・ルパンとラウール・ダンドレジー

(以下の文章は映画「ルパン」と「カリオストロ伯爵夫人」のネタバレを含んでいます。)

ああ、人生はすばらしい! ラウール・ダンドレジー……アルセーヌ・ルパン……それは彫像の両面みたいなものさ! 生けるものたちを照らす栄光は、どちらの顔を輝かすのだろう?(「カリオストロ伯爵夫人」ハヤカワ文庫)

映画「ルパン」を見た後「カリオストロ伯爵夫人」を読んだ。なんかいろいろ面白かった。ルパンの心の動きがより分かるようになったし、この作品にはたくさんの内容盛りこまれているのだなと思う。読み返してみるとたしかに父と子の要素もある。ルパン父・テオフラストについて触れられていのはおそらく他にない。ジャン=ポール・サロメ監督が「カリオストロ伯爵夫人」をイニシエーションだと言った意味がよく分かった。

映画と原作の対比において一番気になるのは、原作ではラウール・ダンドレジーであり、映画ではアルセーヌ・ルパンであるという点だ。以下、それについて考えてみる。この際「アンベール夫人の金庫」は無視する(「アンベール夫人の金庫」ではアルセーヌ・ルパンは偽名とされているため)。映画原作双方ともアルセーヌ・ルパンはルパンの本名、ラウール・ダンドレジーは偽名、ダンドレジーは母の旧姓という設定になっている。


まずは原作から。20歳のルパンは、本名はアルセーヌ・ルパンだったが、ラウール・ダンドレジーとして暮らしていた。おそらくは父の死後母が旧姓に戻ると同時に息子にラウールと名乗らせたのだろう。そして、生来の性癖で盗みの世界に手を染めていたが、一方でラウール・ダンドレジーとして社会的に成功を収めることを信じていた。飛んだり踊ったりおどけて見せたりするが、それはルパンが本来もつ陽気さもあるが、自分の身の中にある情熱の持って行き先を決めかねているようで危うくもある。拳銃を持たないことにしても、悪の道は一旦足を踏み入れてしまうと戻れないという危険を知っており、感情の赴くままに使い殺人の道へ進むことを恐れているように思う。(頭一つで生きていけるまでは拳銃を持たないことにしていると言っている)

ルパンは父の過去を知らなったのかもしれない。ジョゼフィーヌに、詐欺師で獄死したのだと言われて憤慨している。でもルパンは結局それを受け入れている。詐欺師だから何だと言うのだ。父に仕込まれたこの体術のおかげで危機を乗り切り生きてきたのだから。(ただ、父の死亡時は3歳なので父のこと自体覚えているはずがない)。それでも、アルセーヌ・ルパン・ダンドレジーなんて言い方をして、完全に盗み・冒険の世界に入ってしまうことに抵抗している。

最後に金も地位もなかったルパンはその両方を手に入れ、クラリスのいる輝ける世界で生きていけると信じてアルセーヌ・ルパンを消し、正式にラウール・ダンドレジーとなる。クラリスへのプロポーズはとっても感動的だ。このルパンと女性との関係は初期のそれに通じていて、ルブランがもう一度ルパンを描こうとして書いた作品なのだと思う。(「八点鐘」はルパンと良く似た人物が登場するが、ルパンとして登場するわけではないし、「オルヌカン城の謎」から「虎の牙」までは第1次世界大戦が絡むので怪盗として活躍するには不釣合いな時代となっている。)

しかし、やはり泥棒稼業から抜けることはできなかった。その上、“悲劇”を経験することによって、怪盗紳士アルセーヌ・ルパンの世界に身を投じることになる。


映画ではあくまでアルセーヌ・ルパンで、ラウール・ダンドレジーは仮初めの名前に過ぎない。そしてアルセーヌ・ルパンにもう一つの意味を与えている。それはクラリスの幼馴染という点だ。クラリスが好きなのはアルセーヌで、本当の名前アルセーヌ・ルパンとして自分を偽らず生きることを希望する。泥棒だけどまっとうな道へ進めるはずだ。ルパンはそれに答えてクラリスの前ではアルセーヌ・ルパンでいようとする。(クラリスにクラリスの父の行き先を尋ねたのはラウール・ダンドレジーとして最後の質問。字幕ではラウール・ダンドレジーとしてというのは省略されていて、単にに最後の質問になっていた。名前を聞き取れたのでノベライズ本のほうが正しいと思う。ノベライズと映画では本当に微妙なところが違うかもしれないのでノベライズを基準にすることもできないけど)

映画ではルパンの達成点がどこにあったのか分からない。怪盗紳士として活躍しつつあったようだし…。テオフラスト・ルパンの息子としては、父が泥棒ということが分かっているからルパンの悩みの境界線がより悪の世界に近く、父が殺人者であることに悩むことになる(でも、ルパンの想像と違ってあの死体はどこかから調達してきたものだと思う。馬に乗った連れは女性っぽかったし)。どう折り合いをつけたか分からないけど、形見の指輪をずっとしてたので父のことを受け入れてると思いたい。反対に、父のようにはならないという楔かも。

クラリスの幼馴染としては、お尋ね者のはずなのに大丈夫なのか?という疑問はさておいて、最後ルパンは「アルセーヌ・ルパン」として結婚している。“悲劇”のあと、ルパンは自分の身分証を焼き棄てる。いっそアルセーヌ・ルパンの存在など無くなってしまえばいいと思ったのだろうか。15年後のルパンは、クラリスが否定したラウール・ダンドレジーの仮面をかぶっている。この世に自分のことをアルセーヌと呼ぶ女は一人しか残っていない。ジョゼフィーヌだ。というのかなあ。今の私の解釈としては。

映画では登場人物がみんな現代的になっていて、ちょっとずつ悪人になってもいる。だから人間としては原作より分かりやすかった。でも原作では時に饒舌にしゃべるけれど、映画のルパンは殆ど語ってくれない。セリフでも、行動、演技でも。だからルパンの気持ちが良く分からなかった。2時間強という枠に収めるためだったかもしれないけどもう少しゆったり描いてほしかったのが勿体ない。反対にルパンパパの気持ちは一番よく分かったかも。原作にないルパンとパパの特訓がほほえましくてよかった。

2005/10/27:
何度か原作を読んで映画を見て今の考えはちょっと違うけど、そのままにしておく。

(以上の文章は映画「ルパン」と「カリオストロ伯爵夫人」のネタバレを含んでいます。)

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